出典:青空文庫
・・・「あなた、カラスミなんか、好きでしょう? 酒飲みだから。」「大好物だ。ここにあるのかい? ごちそうになろう。」「冗談じゃない。お出しなさい。」 キヌ子は、おくめんも無く、右の手のひらを田島の鼻先に突き出す。 田島は、うん・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・朱漆で塗った地に黒漆でからすの絵を描いたその下に烏丸枇杷葉湯と書いた一対の細長い箱を振り分けに肩にかついで「ホンケー、カラスマル、ビワヨーオートー」と終わりの「ヨートー」を長く清らかに引いて、呼び歩いていたようにも思うし、また木陰などに荷を・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・みんなも前からそう思っていましたし、きのうの夕方やってきた二わのカラスもそういいました。「ぼくなんか落ちるとちゅうで目がまわらないだろうか。」一つの実がいいました。「よく目をつぶっていけばいいさ。」も一つが答えました。「そうだ。・・・ 宮沢賢治 「いちょうの実」