出典:青空文庫
・・・「洋楽にもかなりシンミリしたものがある、ヘイズンかシューベルトのセレナードでも聴いて見給え、かなりシンミリした情調が味える、かつシンミリしたものばかりが美くしい音楽ではないから……」と二、三度音楽会へ誘って見たが、「洋楽は真平御免だ!」とい・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・私ははじめシューベルトの「海辺にて」を吹きました。ご存じでしょうが、それはハイネの詩に作曲したもので、私の好きな歌の一つなのです。それからやはりハイネの詩の「ドッペルゲンゲル」。これは「二重人格」というのでしょうか。これも私の好きな歌なので・・・ 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・これをもひとめ見た印象で言わせてもらえば、シューベルトに化け損ねた狐である。不思議なくらいに顕著なおでこと、鉄縁の小さな眼鏡とたいへんなちぢれ毛と、尖った顎と、無精鬚。皮膚は、大仰な言いかたをすれば、鶯の羽のような汚い青さで、まったく光沢が・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・また、シューベルトの歌曲「糸車のグレーチヘン」は六拍子であって、その伴奏のあの特徴ある六連音の波のうねりが糸車の回転を象徴しているようである。これだけから見ても西洋の糸車と日本の糸車とが全くちがった詩の世界に属するものだということがわかると・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・先生はよくシューベルトの歌曲を歌って聞かせられたが、お得意のレペルトアルは、Stndchen, Am Meer, Im Dorfe, Doppelgnger, Erlknig, Leiermann, Lindenbaum etc. であった・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・ゲーテは十八世紀末から十九世紀の初頭にかけてアポロと云われたそうだけれども、ベートーヴェンの伝記をみていたら、同時代人としていろんな芸術家の写真がのこっていた。シューベルトとゲーテとの写真がそばにあって、自然見くらべられた。シューベルトの表・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ そしてたったままシューベルトの子守唄を弾いた。 しとやかにゆるい諧調は千世子の心をふんわりと抱えて揺籃の裡に居る様な気持にした。 篤はしずかに歌をつけた。 低いゆーらりゆーらりとした歌に千世子は涙をさそわれる様な心に柔さが・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」