出典:青空文庫
・・・「ダンテ、――ボオドレエル、――私。その線がふとい鋼鉄の直線のように思われた。その他は誰もない。」「死して、なおすすむ。」「長生をするために生きて居る。」「蹉跌の美。」「Fact だけを言う。私が夜に戸外を歩きまわると、からだにわるいの・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・かつて祝福されたる人。ダンテの地獄篇を経て、天国篇まで味わうことのできた人。また、ファウストのメフィストだけを気取り、グレエトヘンの存在をさえ忘れている復讐の作家もある。私には、どちらとも審判できないのであるが、これだけは、いい得る。窓ひら・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・そうして地獄を見物に行って来たダンテのように、今見て来た変わった世界の幻像をいつまでもいつまでも心の中で繰り返し蒸し返すように余儀なくされるのである。あるいはまた艶歌師アルベールが結婚の準備にと買って来た女のスリッパーを取り出す場面と切り換・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ホーマーやダンテの多弁では到底描くことのできない真実を、つば元まできり込んで、西瓜を切るごとく、大木を倒すごとき意気込みをもって摘出し描写するのである。 この幻術の秘訣はどこにあるかと言えば、それは象徴の暗示によって読者の連想の活動を刺・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・食卓でちょっと持出されたダンテ魔術団の話と、友人と合奏のときに出たフォイヤーマンのセロ演奏会の噂とでこの夢の西洋人が説明される。魔術が曲馬に変形してそれが猛獣を呼出したと思われる。それからやはり前夜の食卓で何かのついでから、ずっと前に動物園・・・ 寺田寅彦 「夢判断」
・・・D・H・ローレンスは、いつもたった一人の、風の変った、宙ぶらりんな反抗者であるしかなかった。ダンテが巧みにいっている、地獄の中でも辛い地獄は、宙ぶらりんという地獄、と。―― 彼の作品のあるものには、現代社会の機構や社会の生産にたずさわる・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・あの変り者のカーライルでも沙翁の家へ行ったときは自分の名など書く気になったのであろうかと面白い。ダンテの名もあるとハガキに父は書いているが、神曲の作者は沙翁がエリザベス女皇の劇場で活躍するより数世紀以前に白骨となっている。どこの、どの、神曲・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ 明治学院の学生時分から、藤村はダンテの詩集などを愛誦する一方で芭蕉の芸術に傾倒していた。二十三歳頃吉野の方へ放浪した時も、藤村はこの経験によって一層芭蕉を理解することが出来るようになったと語っている。芭蕉の芸術はその文学的教養の面から・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・カルメンの物語でばかりスペインを知っている人々にとって、またダンテとベアトリチェの物語だけでイタリヤの心を知ったと思う人は、これらの国々で不幸な愛人たちが自分たちの幸福への願望と共に流した血潮の多量なことに心から驚かずにいられないだろう。こ・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・イタリーをムッソリーニのファシズムの政権が支配してから、私ども日本へもレオナルド・ダ・ヴィンチ、ダンテなどをイタリー文化の華としてたくさんの金をかけ、大規模な展覧会まで組織して紹介されました。ファシズムのイタリーが、どうしてレオナルド・ダ・・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」