出典:青空文庫
・・・体がポーと熱し本ばかり読んでいる頭は、恍惚に誘われようと欲して音波にしたがう準備をはじめる。ところが、そういう事情で、こちらに期待する感情が自然な要求として強ければ強いだけ、時代ばなれのしたラジオの乱脈はもどかしい。しかも、こちらは、愚劣な・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ 夜の八時頃実にいい気持でお風呂につかってポーとしていたら、あっちこっちのラジオが急におぞましき音でオニワー何とか、何とか何とかワーッと鳴りたてたのでびっくりして耳を立てたら、それは、どこかで年男が節分の豆まきをしているのを中継している・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 私が一番初めに読んだのはポーの小説でした。誰も傍から教えてくれたり、系統だててくれたりするような親切な人を持たなかった私は、手近に手にとれるものから読んだのでした。その次には、ダヌンチョオ、ワイルドという順でした。それは私が十三四歳の・・・ 宮本百合子 「十年の思い出」
・・・「ポーかゴールキーが書いたらどんなだったでしょう。「ええほんとにねえ。 若し私達がそれをモデルにした処がいかにも下司な馬鹿馬鹿しい滑稽ほか出されませんからねえ。 そんな事を書くには年も若すぎるし第一あんまり幸福すぎますも・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・その最初の蒐集の中に、今再び埃の下から現れた赤いクロースの『太陽』だの『美奈和集』だの、もうどこかへ行って跡かたもない黒背皮の『白縫物語』だの『西鶴全集』の端本だのがあった。ポーの小説集二冊を母が何かの拍子で買って来てくれたことから、次第に・・・ 宮本百合子 「本棚」