出典:青空文庫
・・・ そうしてその紅葉と黄葉との間をもれてくる光がなんとも言えない暖かさをもらして、見上げると山は私の頭の上にもそびえて、青空の画室のスカイライトのように狭く限られているのが、ちょうど岩の間から深い淵をのぞいたような気を起させる。 対岸・・・ 芥川竜之介 「日光小品」
・・・だらしがないから駄目なんだ。ライト。爆音。星。葉。信号。風。あっ! 四「佐竹。ゆうべ佐野次郎が電車にはね飛ばされて死んだのを知っているか」「知っている。けさ、ラジオのニュウスで聞いた」「あいつ、うまく災難にかかり・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・玄関からまっすぐに長い廊下が通じていて、廊下の板は、お寺の床板みたいに黒く冷え冷えと光って、その廊下の尽きるところ、トンネルの向う側のように青いスポット・ライトを受けて、ぱっと庭園のその大滝が望見される。葉桜のころで、光り輝く青葉の陰で、ど・・・ 太宰治 「デカダン抗議」
・・・ピンヘッドとかサンライズとか、その後にはまたサンライトというような香料入りの両切紙巻が流行し出して今のバットやチェリーの先駆者となった。そのうちのどれだっかた東京の名妓の写真が一枚ずつ紙函に入れてあって、ぽん太とかおつまとかいう名前が田舎の・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・アークライトが緑の茂みを打ち抜いて、複雑な模様を地上に織っていた。ビールの汗で、私は湿ったオブラートに包まれたようにベトベトしていた。 私はとりとめもないことを旋風器のように考え飛ばしていた。 ――俺は飢えてるんじゃないか。そして興・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・会場である共立講堂へニュースのライトが輝いたらしく、派手な空気は、わたしをおどろかした。婦人民主クラブの成立に関係をもった幾人かの婦人が話をした。加藤シズエ夫人もその一人だった。もうそのころ立候補がきまっていた夫人は、婦人と政治的自覚につい・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ 警笛を鳴らさずかたっぽのヘッド・ライトをぼんやりつけたトラックがとんできた。 日本女は、寂しい歩道をときどき横に並んでる家の羽目へ左手をつっぱりながら歩いて行った。本当は新しい防寒靴をもうとっくに買わなければならない筈なんだ。底で・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・ニュースカメラのライトが一斉に彼の上に集中された。彼は落着いていて、はっきりした、やや早めな口調で「起訴状によりますと、共同謀議でやったとなっていますが、私一人の単独犯であります。民同、共産党の煽動によるものではなく、吉田内閣や三田村氏の陰・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・闇にまぎれて便乗するにしろ、ステップをてらすライトといった感じである。 闇のくらさは何にたとえよう。ふつう人の生活からひきあげられた便乗は、底の見とおせない独占資本とそれにつながる閣僚・官僚生活の黒雲のなかに巻きあげられて、魔もののよう・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・ ふだん街の面をぎらつかせているネオンライトや装飾燈が無く、中天から月の明りを受けて水の底に沈んだような街筋を行くと、思いもかけない家と家との庇合いから黒く物干が聳えて見えたり、いつもとは違う生活の印象的な風景である。とある坂の途中に近・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」