出典:青空文庫
・・・カンバスなどは使わず、黄色いボール紙に自分で膠を引いてそれにビチューメンで下図の明暗を塗り分けてかかるというやり方であった。かなりたくさんかいたが実物写生という事はついにやらずにしまった。そして他郷に遊学すると同時にやめてしまって、今日まで・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・可憐な都会の小学児童まで動員してこの木枯しの街頭にボール箱を頸にかけての義捐金募集も悪くはないであろうが、文化的国民の同胞愛の表現はもう少し質実にもう少しこくのあるものであってもよいと思われる。肺炎になってしまってからの愛児の看護に骨を折る・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・ナウエンの無線電信塔の鉄骨構造の下端がガラスのボール・ソケット・ジョイントになっているのを見たときにも胆を冷やしたことであった。しかし日本では濃尾震災の刺戟によって設立された震災予防調査会における諸学者の熱心な研究によって、日本に相当した耐・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
一 古い伝統の床板を踏み抜いて、落ち込んだやっぱり中古の伝統長屋。今度の借家は少し安普請で、家具は仕入れ。ボールの机にブリキの時計、時計はいつでも三十度くらい傾いて、そして二十五時のところで止ってい・・・ 寺田寅彦 「二科狂想行進曲」
・・・かつてのら猫の遊び場所であったつつじの根もとの少しくぼんだ所は、何かしらやはりどの猫にも気に入ると見えて、ボールを追っかけたりして駆け回る途中で、きまったようにそこへ駆け込んだ。そして餌をねらう猛獣のような姿勢をして抜き足で出て来て、いよい・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・その新文化の最も目ざましい表象として維新時代の夢のまださめ切らなかった生徒たちの心に強い印象と衝動を与えたものはベースボール、フートボール、クリケット、クロケーそれからボートレースなどの新遊戯であった。若く元気な生徒らの目にはどこかの別の世・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・あんまり僕も気の毒になったから屋根の上からじっとボールの往来をにらめてすきを見て置いてねえ、丁度博士がサーヴをつかったときふうっと飛び出して行って球を横の方へ外らしてしまったんだ。博士はすぐもう一つの球を打ちこんだねえ。そいつは僕は途中に居・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・なし〕「ボール投げなら僕決してはずさない。」 男の子が大威張りで云いました。「もうじきサウザンクロスです。おりる支度をして下さい。」青年がみんなに云いました。「僕も少し汽車へ乗ってるんだよ。」男の子が云いました。カムパネ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・「誰か、きょう、地下室のガラス窓にボールをぶつけてこわした人があります」 さては、お小言か。こわした者は出ていらっしゃいと、わたしどもが小学校でやられた時の通りに進むかと思っていると、ソヴェト同盟では、ちがう。先生はしずかに言葉をつ・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・ 箪笥の一番下のひき出しに、三井呉服店とかいたボール箱に入ったままあるのを見て、娘がきいた。「あれはお父様が西洋のねまきだってさ」 そう云って母は青々と木の茂った庭へ目をやったきりだった。その庭の草むしりを、母は上の二人の子供あ・・・ 宮本百合子 「菊人形」