出典:青空文庫
・・・私が初めて訪問した時にダーウィンの『種原論』が載っていた粗末な卓子がその後脚を切られて、普通の机となって露西亜へ行くまで使用されていた。硯も書生時代から持古るしたお粗末のものなら、墨も筆も少しも択ばなかった。机の上は勿論、床の間にさえ原稿紙・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 私は、子供に、彼の偉大なるダーウィンが生きた虫を殺そうとせず、死骸をさがしてきて、標本をつくったという話をして聞かせました。「そんなら、ひとりでに死んだのならいゝのですか」と、彼は問いかえしました。自然の死は、誰をとがむることもで・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・これは元来ダーウィンの自然淘汰説に縁をひいていて、自然の選択を人工的に助長するにある。尤もこの考えはオリンピアの昔から、あらゆる試験制度に通じて現われているので、それ自身別に新しいことではないが、問題は制度の力で積極的にどこまで進めるかにあ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ 手近な例を取ってみても、ファーブルの昆虫記や、チンダルの氷河記を読む人は、その内容が科学であると同時に芸術であることを感得するであろう。ダーウィンの「種の始源」はたしかに一つの文学でもある。ウェーゲナーの「大陸移動論」は下手の小説より・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 哲学者科学者皆そうである。アリストテレースなどは贓品の蔵を建てた男である。仕事が大きいほど罪も深い。 ダーウィンが彼の進化論をまとめ上げて、それが一般に持てはやされた時代には、おそらくダーウィンに対して前述の粘土供給者と同様の怨恨・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・日本では馬が泣く話がある。ダーウィンは象その他若干の獣が泣くと主張したがその説は確認されてはいないそうである。ともかくも明白に正真正銘に「泣き」また「笑う」のはだいたいにおいて人間の特権であるらしいから、われわれはこの特権を最も有効に使用す・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ その一つの証拠としては普通ダーウィンの行なった次の実験があげられている。数羽の禿鷹コンドルを壁の根もとに一列につないでおいて、その前方三ヤードくらいの所を紙包みにした肉をさげて通ったが、鳥どもは知らん顔をしていた。そこで肉の包みを鳥か・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・またチャールス・ダーウィンとも知合になった。後年彼の書いたものの中にこんなことがある。「一八七〇年にダーウィンと一緒になったとき、あるアメリカ人からよこした手紙のことを話した。それは『失礼ですが貴方の顔が著しく猿に似ているという事実が貴方の・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・物質と精神との力で、科学の力を最も活溌に毎日の市民生活にとり入れているはずのアメリカの一つの州では、宗教上の偏見からダーウィンの進化論について講義することを禁じられているという信じられないような事実もある。コフマンはアメリカの人だから、自分・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」