出典:青空文庫
・・・待合室のベンチにはレエン・コオトを着た男が一人ぼんやり外を眺めていた。僕は今聞いたばかりの幽霊の話を思い出した。が、ちょっと苦笑したぎり、とにかく次の列車を待つ為に停車場前のカッフェへはいることにした。 それはカッフェと云う名を与えるの・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・とぼとぼと瞬く灯の下で活字を追っていると、窓の外を夜遊びして帰った寮生の連中が、「ローベンはよせ」「糞勉強はやめろ」などと怒鳴りながら通って行く。その声を聞きつつ何か勝利感に似たものをハッキリと覚えている。 読書は自信感を与えるものであ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ 私はその特高に連れられたまゝ、何ベンも何ベンもグル/\階段を降りて、バラックの控室に戻ってきた。途中、忙しそうに歩いている色んな人たちと出会った。その人たちは俺を見ると、一寸立ち止まって、それから頭を振っていた。「さ、これでこの・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・ スバーの住んでいたのは、チャンデプールと云う村でした。ベンガール地方の川としては小さいその村の川は、あまり立派でもない家の娘のように、狭い自分の領分を大事に守って居りました。そのいそがしい水の流れは、決して堤から溢れることがありません・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・ 林の向うのすすきのかげには、ベン蛙のうちがありました。 三疋は年も同じなら大きさも大てい同じ、どれも負けず劣らず生意気で、いたずらものでした。 ある夏の暮れ方、カン蛙ブン蛙ベン蛙の三疋は、カン蛙の家の前のつめくさの広場に座って・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・ 主人公はオスタップ・ベンデルという山師で、北極飛行で世界に有名なシュミット博士の息子と称するいかさま師である。このベンデルが、永年の夢として抱いているリオ・デジャネイロ市へ永住するための資金を稼ごうとして、数年来あらゆる悪辣な秘密手段・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・文選十六人は彼を入れすぐ立ち、六時の夕飯三十分の休みに、文選十六人はベン当箱をもって一つところに集り、きめた以上の仕事はしないこと、きめた以上は監督のところへ突かえしにゆき残業させぬようにしようと決議して就業。「ガンばれ」「うら切るとゲンコ・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・ ロザリーは、現代の女性が持ち得る最上の幸福を以て十年の間に、ハフ、ドラ、ベンジャミン三人の子供の母となりました。 勿論この間には、多少生活感情上の暗闘がなかった訳ではありませんが、彼女は、稀な美貌と事務的敏腕を兼備し、その上、著名・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」