出典:青空文庫
・・・「これは国木田独歩です。轢死する人足の心もちをはっきり知っていた詩人です。しかしそれ以上の説明はあなたには不必要に違いありません。では五番目の龕の中をごらんください。――」「これはワグネルではありませんか?」「そうです。国王の友・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・かくしてニーチェはワグネルと別れ、日蓮は道善房と別れねばならなかった。清澄山の道善房はむしろ平凡な人であったが、日蓮が法華経に起ったとき、怒って破門した。後に道善房が死んだとき日蓮は身延山にいたが、深く悲しみ、弟子日向をつかわして厚く菩提を・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・ 第四回ワグネル君、正直に叫んで、成功し給え。しんに言いたい事があるならば、それをそのまま言えばよい。「はい。」という女のように優しい素直な返事が二階の障子の奥から聞えて来たので、・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ここではワグネル物をたとえば四幕のものなら二幕ぐらいに切って演じたり、勝手な事をすると言ってひどく憤慨していました。 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・真正の音楽狂はワグネルの音楽をばオペラの舞台的装置を取除いて聴く事をかえって喜ぶ。しかしそれとは全然性質を異にする三味線はいわば極めて原始的な単純なもので、決して楽器の音色からのみでは純然たる音楽的幻想を起させる力を持っていない。それ故日本・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・しかしこの音楽はワグネルの組織ともドビュッシイの法式とも全く異ってその土地に生れたものの心にのみ、その土地の形象が秘密に伝える特種の芸術の囁きともいうべきであったろう。 已に半世紀近き以前一種の政治的革命が東叡山の大伽藍を灰燼となしてし・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・学生は堕落していて、ワグネルがどうのこうのと云って、女色に迷うお手本のトリスタンなんぞを聞いて喜ぶのである。男の贔屓は下町にある。代を譲った倅が店を三越まがいにするのに不平である老舗の隠居もあれば、横町の師匠の所へ友達が清元の稽古に往くのを・・・ 森鴎外 「余興」