せい‐けい【生計】例文一覧 30件

  1. ・・・女は夫や子供の死後、情深い運送屋主人夫婦の勧め通り、達者な針仕事を人に教えて、つつましいながらも苦しくない生計を立てていたのです。」 客は長い話を終ると、膝の前の茶碗をとり上げた。が、それに唇は当てず、私の顔へ眼をやって、静にこうつけ加・・・<芥川竜之介「捨児」青空文庫>
  2. ・・・――親仁が、生計の苦しさから、今夜こそは、どうでも獲ものをと、しとぎ餅で山の神を祈って出ました。玉味噌を塗って、串にさして焼いて持ちます、その握飯には、魔が寄ると申します。がりがり橋という、その土橋にかかりますと、お艶様の方では人が来るのを・・・<泉鏡花「眉かくしの霊」青空文庫>
  3. ・・・ているのだが、本当は大きな椀に盛って一つだけ持って来るよりも、そうして二杯もって来る方が分量が多く見えるというところをねらった、大阪人の商売上手かも知れないが、明治初年に文楽の三味線引きが本職だけでは生計が立たず、ぜんざい屋を経営して「めを・・・<織田作之助「大阪発見」青空文庫>
  4. ・・・その代り俺の方で惣治からの仕送りを断るから、それでお前は別に生計を立てることにしたがいいだろう。とにかくいっしょにいるという考えはよくない」 気のいい老父は、よかれ悪かれ三人の父親である耕吉の、泣いて弁解めいたことを言ってるのに哀れを催・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  5. ・・・適当の収入さえあれば、夫への心をこめた奉仕と、子どもの懇ろなる養育と、家庭内の労働と団欒とを欲する婦人が生計の不足のためにやむなく子供を託児所にあずけて、夫とともに家庭を留守にして働くのである。婦人には月々の生理週間と妊娠と分娩後の静養と哺・・・<倉田百三「婦人と職業」青空文庫>
  6. ・・・ 問題が解決するまで、これからなお一年かゝるか二年かゝるか分らないが、それまでともかく豚で生計を立てねばならなかった。豚と云っても馬鹿にはならない。三十貫の豚が一匹あればツブシに売って、一家が一カ月食って行く糧が出るのだ。 こゝ半年・・・<黒島伝治「豚群」青空文庫>
  7. ・・・でも、私はあの山の上から東京へ出て来て見るたびに、とにもかくにも出版業者がそれぞれの店を構え、店員を使って、相応な生計を営んで行くのにその原料を提供する著作者が――少数の例外はあるにもせよ――食うや食わずにいる法はないと考えた。私が全くの著・・・<島崎藤村「分配」青空文庫>
  8. ・・・に、さし画でもカットでも何でも描かせてほしいと顔を赤らめ、おどおどしながら申し出たのを可愛く思い、わずかずつ彼女の生計を助けてやる事にしたのである。物腰がやわらかで、無口で、そうして、ひどい泣き虫の女であった。けれども、吠え狂うような、はし・・・<太宰治「グッド・バイ」青空文庫>
  9. ・・・何とかして窮迫した生計の血路をひらかなければいけない。 私は或る出版社から旅費をもらい、津軽旅行を企てた。その頃日本では、南方へ南方へと、皆の関心がもっぱらその方面にばかり集中せられていたのであるが、私はその正反対の本州の北端に向って旅・・・<太宰治「十五年間」青空文庫>
  10. ・・・田舎に少しばかりの田地があるから、それを生計のしろとして慰みに花でも作り、余裕があれば好きな本でも買って読む。朝一遍田を見廻って、帰ると宅の温かい牛乳がのめるし、読書に飽きたら花に水でもやってピアノでも鳴らす。誰れに恐れる事も諛う事も入らぬ・・・<寺田寅彦「枯菊の影」青空文庫>
  11. ・・・日本の留学生ばかりを弟子にして生活していたのが、大戦の爆発と共に留学生は皆引き上げるし、同時に日本人に対する市民の反感が高まった時に、なんらかのいやな経験をしたのではあるまいか、その後の生計をどうして立てて行ったろうか。これは何かのおりには・・・<寺田寅彦「病室の花」青空文庫>
  12. ・・・、間もなく死別れて、二度目は田舎から正式に妻を迎え一時神田辺で何か小売商店を営んでいたところ、震災後商売も次第に思わしからず、とうとう店を閉じて郡部へ引移り或会社に雇われるような始末に、お民は兄の家の生計を助けるために始てライオンの給仕女と・・・<永井荷風「申訳」青空文庫>
  13. ・・・親は生計のための修業と考えているのに子供は道楽のための学問とのみ合点している。こういうような訳で道楽の活力はいかなる道徳学者も杜絶する訳にいかない。現にその発現は世の中にどんな形になって、どんなに現れているかと云うことは、この競争劇甚の世に・・・<夏目漱石「現代日本の開化」青空文庫>
  14. ・・・然らば則ち夫婦家に居るは其苦楽を共にするの契約なるが故に、一家貧にして衣食住も不如意なれば固より歌舞伎音曲などの沙汰に及ぶ可らず、夫婦辛苦して生計にのみ勉む可きなれども、其勉強の結果として多少の産を成したらんには、平生の苦労鬱散の為めに夫婦・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  15. ・・・かかる人物を政府の区域中に入れて、その不慣なる衣冠をもって束縛するよりも、等しく銭をあたうるならば、これを俗務外に安置して、その生計を豊にし、その精神を安からしむるに若かず。元老院中二、三の学者あるも、その議事これがために色を添うるに非ず。・・・<福沢諭吉「学問の独立」青空文庫>
  16. ・・・一、私塾の教師は、教授をもって金を得ざれば、別に生計の道を求めざるをえず。生計に時を費せばおのずから塾生の教導を後にせざるをえず。その失、三なり。一、私塾には黜陟・与奪の公権なきがゆえに、人生天稟の礼譲に依頼して塾法を設け、生徒を導・・・<福沢諭吉「学校の説」青空文庫>
  17. ・・・非役の輩は固より智力もなく、かつ生計の内職に役せられて、衣食以上のことに心を関するを得ずして日一日を送りしことなるが、二、三十年以来、下士の内職なるもの漸く繁盛を致し、最前はただ杉檜の指物膳箱などを製し、元結の紙糸を捻る等に過ぎざりしもの、・・・<福沢諭吉「旧藩情」青空文庫>
  18. ・・・細大洩らさず、すべて実際の知見を奨励し、満塾の学生をして即身実業の人とならしめ、かの養蚕の卵より卵を生ずるに等しく、本塾に卒業したる者がただわずかに学校の教師となるか、または役人となりて、孤児・寡婦の生計を学ぶなどいう無気無腸のそしりを免か・・・<福沢諭吉「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」青空文庫>
  19. ・・・女大学の末文に、百万銭を出して女子を嫁せしむるは十万銭を出して子を教うるに若かず云々の意を記したるは敬服の至りなれども、我輩は一歩を進めて娘の結婚には衣装万端支度の外に相当の財産分配を勧告する者なり。生計不如意の家は扨置き、筍も資力あらん者・・・<福沢諭吉「新女大学」青空文庫>
  20. ・・・ 右の如く、ただ気位のみ高くなりて、さて、その生計はいかんというに、かつて目的あることなし。これまた、士族の気風にして、祖先以来、些少にても家禄あれば、とうてい飢渇の憂なく、もとより貧寒の小士族なれども、貧は士の常なりと自から信じて疑わ・・・<福沢諭吉「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」青空文庫>
  21. ・・・植村婆さんは、若い其等の縫いてがいやがる子供物の木綿の縫いなおしだの、野良着だのを分けて貰って生計を立てて来たのであった。沢や婆のいるうちは、彼女よりもっと年よりの一人者があった訳だ。もっと貧しい、もっと人に嫌がられる者があった。その者を、・・・<宮本百合子「秋の反射」青空文庫>
  22. ・・・ たとえば賃銀についてみると、日本の男の労働者はイギリスなどに比べると一四・五%から三七%、大体三分の一ほどの賃銀で生計を立てているのであるが、婦人労働者になると、さらにその三分の一が標準となっている。昭和五年に、男が二円二十二銭一厘の・・・<宮本百合子「新しい婦人の職場と任務」青空文庫>
  23. ・・・それにつけても、文筆の活動で生計を立ててゆかなければならない私たちの必要は、食うためにはそれもしかたがない、という過去、あるいは現在の諸条件を、生存するばかりか人生のための仕事なのだからこそ、ここまで高まらなくてはならないと社会的に主張し、・・・<宮本百合子「ある回想から」青空文庫>
  24. ・・・徳川時代、武士と町人百姓の身分制度はきびしくて、町人からの借金で生計を保つ武士にも、斬りすて御免の権力があった。高利貸資本を蓄積して徳川中葉から経済力を充実させて来た大阪や江戸の大町人が、経済の能力にしたがって人間らしい自分の欲望を発揮する・・・<宮本百合子「偽りのない文化を」青空文庫>
  25. ・・・数年前デパートの女店員は家庭を助けたが、今は家庭が中流で両親そろい月給で生計を助ける必要のないものというのが採用試験の条件である。「大人」に憂いが深いばかりか大人になりつつある若い男女の心も、訴えに満ちている。世の中は何故こうなったのだろう・・・<宮本百合子「「大人の文学」論の現実性」青空文庫>
  26. ・・・財閥は決して退治されていない。生計の担当者である彼女たちの一票は少くともそれに反対する人民の意思表示となるべきであると思う。        安達ヶ原 群馬の或るところに恐ろしい人肉事件が起った。また再び詳しく話し返すに堪えな・・・<宮本百合子「女の手帖」青空文庫>
  27. ・・・ この三四年来は、さぞ漁村からも働き盛りの男たちが留守になっているのだろうが、あとの稼業や生計はどんな工合に営まれているだろうかと考えられる。農家では、女と子供の働きが非常に動員された。ある場所では機械や牛馬の力も加えて、男のいないあと・・・<宮本百合子「漁村の婦人の生活」青空文庫>
  28. ・・・これだけの人数が、みんな一ヵ月世帯主三〇〇円、家族数一人につき一〇〇円ずつの預金をどこからか下げて、あらゆる三倍ずつの生計費をまかなって暮し、花見をして、上機嫌で平和の春がうたえるものだと、かりそめにも思うものは無い。 労働法が出来たけ・・・<宮本百合子「現実の必要」青空文庫>
  29. ・・・直接生計の不安のない夫人たち、家事はほかのひとにまかせることのできるだけゆとりある社会的環境の女の人々がある意味で進出して来ています。これは、今日の文学そのものの問題も一面にふくんではいるが、そういう条件をもった婦人たちの文学の仕事ぶりと、・・・<宮本百合子「現実の道」青空文庫>
  30. ・・・質素で濫費をせぬから、生計に困るようなことはないが、十分に書物を買うだけの金はない。書物は借りて覧て、書き抜いては返してしまう。大阪で篠崎の塾に通ったのも、篠崎に物を学ぶためではなくて、書物を借るためであった。芝の金地院に下宿したのも、書庫・・・<森鴎外「安井夫人」青空文庫>