そん‐らく【村落】例文一覧 30件

  1. ・・・渓の水が委蛇と流れたところに、村落や小橋が散在している、――その上に起した主峯の腹には、ゆうゆうとした秋の雲が、蛤粉の濃淡を重ねています。山は高房山の横点を重ねた、新雨を経たような翠黛ですが、それがまたしゅを点じた、所々の叢林の紅葉と映発し・・・<芥川竜之介「秋山図」青空文庫>
  2. ・・・会場は支那の村落に多い、野天の戯台を応用した、急拵の舞台の前に、天幕を張り渡したに過ぎなかった。が、その蓆敷の会場には、もう一時の定刻前に、大勢の兵卒が集っていた。この薄汚いカアキイ服に、銃剣を下げた兵卒の群は、ほとんど看客と呼ぶのさえも、・・・<芥川竜之介「将軍」青空文庫>
  3. ・・・九十九里付近一帯の村落に生い立ったものは、この波の音を直ちに春の音と感じている。秋の声ということばがあるが、九十九里一帯の地には秋の声はなくてただ春の音がある。 人の心を穏やかに穏やかにと間断なく打ちなだめているかと思われるは、この九十・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  4. ・・・正義のみの村落、もしくは、美のみの郷土というものは、探し出されなかった。たとえば、人間に共通した真理はある。理想はある。感情はある。けれど、それのみの世界というものは、現実に於てあり得ない。大衆といい、民衆といい、抽象的に、いかように人間を・・・<小川未明「彼等流浪す」青空文庫>
  5. ・・・ 小露地方や、北コーカサスの自然は、詩趣に富んで、自由な気が彼等の村落生活に行きわたっていることは、トルストイ、ゴリキイ、其他の作家の作品に描かれている。フィンランドは、世界中で、一番生活のしよい処だということであった。而して陰惨なペト・・・<小川未明「北と南に憧がれる心」青空文庫>
  6. ・・・ 間もなく自分も志村も中学校に入ることとなり、故郷の村落を離れて、県の中央なる某町に寄留することとなった。中学に入っても二人は画を書くことを何よりの楽にして、以前と同じく相伴うて写生に出掛けていた。 この某町から我村落まで七里、もし・・・<国木田独歩「画の悲み」青空文庫>
  7. ・・・この両家とも田舎では上流社会に位いするので、祝儀の礼が引きもきらない。村落に取っては都会に於ける岩崎三井の祝事どころではない、大変な騒ぎである。両家は必死になって婚儀の準備に忙殺されている。 その愈々婚礼の晩という日の午後三時頃でもあろ・・・<国木田独歩「富岡先生」青空文庫>
  8. ・・・男体山麓の噴火口は明媚幽邃の中禅寺湖と変わっているがこの大噴火口はいつしか五穀実る数千町歩の田園とかわって村落幾個の樹林や麦畑が今しも斜陽静かに輝いている。僕らがその夜、疲れた足を踏みのばして罪のない夢を結ぶを楽しんでいる宮地という宿駅もこ・・・<国木田独歩「忘れえぬ人々」青空文庫>
  9. ・・・そこで、すきに乗じて、村落を襲い、鶏や仔犬や、豚をさらって行くのであった。彼等は群をなして、わめきながら、行くさきにあるものは何でも喰い殺さずにはおかないような勢いでやって来た。歩哨は、それに会うと、ふるえ上らずにはいられなかった。こちらは・・・<黒島伝治「渦巻ける烏の群」青空文庫>
  10. ・・・さればとて故郷の平蕪の村落に病躯を持帰るのも厭わしかったと見えて、野州上州の山地や温泉地に一日二日あるいは三日五日と、それこそ白雲の風に漂い、秋葉の空に飄るが如くに、ぶらりぶらりとした身の中に、もだもだする心を抱きながら、毛繻子の大洋傘に色・・・<幸田露伴「観画談」青空文庫>
  11. ・・・ 対岸に見える村落、野趣のある釣橋、河原つづきの一帯の平地、遠い近い山々――それらの眺望は先生方を悦ばせた。日あたりの好いことも先生方を悦ばせた。この谷間は割合に豊饒で、傾斜の上の方まで耕されている。眼前に連なる青田は一面緑の波のように・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  12. ・・・ 街道には久しく村落がないが、西方には楊樹のやや暗い繁茂がいたるところにかたまって、その間からちらちら白色褐色の民家が見える。人の影はあたりを見まわしてもないが、青い細い炊煙は糸のように淋しく立ちがる。 夕日は物の影をすべて長く曳く・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  13.  昭和十年七月十一日午後五時二十五分頃、本州中部地方関東地方から近畿地方東半部へかけてかなりな地震が感ぜられた。静岡の南東久能山の麓をめぐる二、三の村落や清水市の一部では相当潰家もあり人死もあった。しかし破壊的地震としては極・・・<寺田寅彦「静岡地震被害見学記」青空文庫>
  14. ・・・またある島の火山の爆裂火口の中へ村落を作っていたのがある日突然の爆発に空中へ吹き飛ばされ猫の子一つ残らなかった事があった。そうして数年の後にはその同じ火口の中へいつのまにかまた人間の集落が形造られていた。こんな事を考えてみると虫の短い記憶―・・・<寺田寅彦「芝刈り」青空文庫>
  15. ・・・そうしてそれらの世襲知識を整理し帰納し演繹してこの国土に最も適した防災方法を案出し更にまたそれに改良を加えて最も完全なる耐風建築、耐風村落、耐風市街を建設していたのである。そのように少なくも二千年かかって研究しつくされた結果に準拠して作られ・・・<寺田寅彦「颱風雑俎」青空文庫>
  16. ・・・岸べに天幕があって駱駝が二三匹いたり、アフリカ式の村落に野羊がはねていたりした。みぎわには蘆のようなものがはえている所もあった。砂漠にもみぎわにも風の作った砂波がみごとにできていたり、草のはえた所だけが風蝕を受けないために土饅頭になっている・・・<寺田寅彦「旅日記から(明治四十二年)」青空文庫>
  17.  昭和八年三月三日の早朝に、東北日本の太平洋岸に津浪が襲来して、沿岸の小都市村落を片端から薙ぎ倒し洗い流し、そうして多数の人命と多額の財物を奪い去った。明治二十九年六月十五日の同地方に起ったいわゆる「三陸大津浪」とほぼ同様な・・・<寺田寅彦「津浪と人間」青空文庫>
  18. ・・・ ただこのごろの新聞紙上をにぎわすようないろいろの不祥な社会的現象は、それが大本教事件でも宝塚事件でも、すべてが直接これらの事件とはなんの関係もない南海の村落でこの「ナンモンデー」の廃止された事とどこかで連関していて、むしろそれの当然の・・・<寺田寅彦「田園雑感」青空文庫>
  19. ・・・れは単なる想像であるが、しかし自分が最近に中央線の鉄道を通過した機会に信州や甲州の沿線における暴風被害を瞥見した結果気のついた一事は、停車場付近の新開町の被害が相当多い場所でも古い昔から土着と思わるる村落の被害が意外に少ないという例の多かっ・・・<寺田寅彦「天災と国防」青空文庫>
  20. ・・・この小説の中に、かつてシャンパンユの平和なる田園に生れて巴里の美術家となった一青年が、爆裂弾のために全村尽く破滅したその故郷に遊び、むかしの静な村落が戦後一変して物質的文明の利器を集めた一新市街になっているのを目撃し、悲愁の情と共にまた一縷・・・<永井荷風「深川の散歩」青空文庫>
  21. ・・・な気がして、四方の眺望は悉く眼下に横わっているが、しかし海や川が見えるでもなく、砂漠のような埋立地や空地のところどころに汚い長屋建の人家がごたごたに寄集ってはまた途絶えている光景は、何となく知らぬ国の村落を望むような心持である。遥のかなたに・・・<永井荷風「元八まん」青空文庫>
  22. ・・・マチは村落によって日が違った。瞽女はぐるぐるとマチを求めて村々をめぐる。太十の目には田の畔から垣根から庭からそうして柿の木にまで挂けらえた其稲の収穫を見るより瞽女の姿が幾ら嬉しいか知れないのである。瞽女といえば大抵盲目である。手引といって一・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  23. ・・・数哩へだたった山々はゆるやかな起伏をもってうっすりと、あったまった大気の中に連っているのであるが、昔山々と市街との間をつないでいた村落や田園は片影をとどめない。 今日あるものは、満目の白い十字の墓標である。幾万をもって数えられるかと思う・・・<宮本百合子「女靴の跡」青空文庫>
  24. ・・・ ヴェルダン市とその周囲の山々につづく村落とはまったく廃墟となっていて、市役所の跡などはポンペイの発掘された市のとおり、土台だけが遺されている。 一望果しなく荒涼とした草原を自動車は疾駆し次第に山腹よりに近づき、ドーモンその他の砲台・・・<宮本百合子「金色の口」青空文庫>
  25. ・・・この階級的軍隊は中国の村落を占領すると、先ずそこで何をやったであろうか。住民の逃げた後の民家を掠奪から保護した。掠奪する中国人を捕え、品物を出させ、それをステーションの貨物倉庫へ番兵つきで保管した。追い追い村へ戻って来た中国村民がそれを見て・・・<宮本百合子「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」青空文庫>
  26. ・・・ СССРで一九二六年に五千七十七万千九百九十七人あった文盲者が一九三〇年には既に四千三百万人前後に減り、五ヵ年計画完成後は都会七パーセント、村落二〇・六パーセントまで減少するということはきわめて自然なことだ。生活そのものが、文字はパン・・・<宮本百合子「子供・子供・子供のモスクワ」青空文庫>
  27. ・・・あの辺の村落は恐ろしい勢で解体しつつある。畑などどしどし宅地に売られ、広い地所をもった植木屋は新しい切り割り道を所有地に貫通させ、奥に、売地と札を立てた四角い地面を幾区画か示している。私なら、ああいう場処に住むのはいやと思った。新開地で樹木・・・<宮本百合子「是は現実的な感想」青空文庫>
  28. ・・・ソヴェト式に自分たちの仕事を分担し組織する能力と習慣とをもった農村出身者たちは、東ドイツの村落へ行っても、その能力を発揮した。勤労者の技術学校があるということは、そこの共学の教室へ娘たちを愉快に通わせたのみでなかった。「春」という小説にかか・・・<宮本百合子「政治と作家の現実」青空文庫>
  29. ・・・同時に占領した中国の村落へ、すぐ社会主義的な規律と文化とを移植した。彼等は、村の住民がすてて逃げた家々を掠奪から守り、農民が帰って来たとき、農村ソヴェトの組織を指導した。赤軍映画隊は、弁髪長い中国の農村プロレタリアートに、最初の文化の光、キ・・・<宮本百合子「ソヴェト文壇の現状」青空文庫>
  30. ・・・すなわち村落の社会、特に彼を育てる家や彼の交わる仲間たちであった。さまざまの茸の中から特に初茸や黄茸や白茸やしめじ茸などを選び出して彼に示し、彼に味わわせ、またそれらを探し求める情熱と喜びとを彼に伝えたのは、彼の親や仲間たちであった。言いか・・・<和辻哲郎「茸狩り」青空文庫>