たより【頼り/便り】例文一覧 30件

  1. ・・・ 遠藤はその光を便りに、怯ず怯ずあたりを見廻しました。 するとすぐに眼にはいったのは、やはりじっと椅子にかけた、死人のような妙子です。それが何故か遠藤には、頭に毫光でもかかっているように、厳かな感じを起させました。「御嬢さん、御・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・衆徳備り給う処女マリヤに御受胎を告げに来た天使のことを、厩の中の御降誕のことを、御降誕を告げる星を便りに乳香や没薬を捧げに来た、賢い東方の博士たちのことを、メシアの出現を惧れるために、ヘロデ王の殺した童子たちのことを、ヨハネの洗礼を受けられ・・・<芥川竜之介「おしの」青空文庫>
  3. ・・・ クララは頼りないものを頼りにしたのを恥じて手を放した。そして咽せるほどな参詣人の人いきれの中でまた孤独に還った。「ホザナ……ホザナ……」 内陣から合唱が聞こえ始めた。会衆の動揺は一時に鎮って座席を持たない平民たちは敷石の上に跪・・・<有島武郎「クララの出家」青空文庫>
  4. ・・・淋しい花嫁は頭巾で深々と顔を隠した二人の男に守られながら、すがりつくようにエホバに祈祷を捧げつつ、星の光を便りに山坂を曲りくねって降りて行った。 フランシスとその伴侶との礼拝所なるポルチウンクウラの小龕の灯が遙か下の方に見え始める坂の突・・・<有島武郎「クララの出家」青空文庫>
  5. ・・・慾にも、我慢にも、厭で厭で、厭で厭で死にたくなる時がありますとね、そうすると、貴下が来て、お留めなさると思ってね、それを便りにしていますよ。 まあ、同じようで不思議だから、これから別れて帰りましたら、私もまた、月夜にお濠端を歩行きましょ・・・<泉鏡花「女客」青空文庫>
  6. ・・・岩淵の渡場手前に、姉の忰が、女房持で水呑百姓をいたしておりまして、しがない身上ではありまするけれど、気立の可い深切ものでございますから、私も当にはしないで心頼りと思うております。それへ久しぶりで不沙汰見舞に参りますと、狭い処へ一晩泊めてくれ・・・<泉鏡花「政談十二社」青空文庫>
  7. ・・・民子はあなたが情の力を便りにあの世へゆきます。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」 僕は懐にあった紙の有りたけを力杖に結ぶ。この時ふっと気がついた。民さんは野菊が大変好きであったに野菊を掘ってきて植えればよかった。いや直ぐ掘ってきて植えよう。こ・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  8. ・・・ おとよはどんな悲しい事があっても、つらい事があっても、省作の便りを見、まれにも省作に逢うこともあれば、悲しいもつらいも、心の底から消え去るのだから、よそ目に見るほど泣いてばかりはいない。例の仕事上手で何をしても人の二人前働いている。・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  9. ・・・……私たちは、もう長い間、このさびしい、話をするものもない、北の青い海の中で暮らしてきたのだから、もはや、明るい、にぎやかな国は望まないけれど、これから産まれる子供に、せめても、こんな悲しい、頼りない思いをさせたくないものだ。…… 子供・・・<小川未明「赤いろうそくと人魚」青空文庫>
  10. ・・・私達は、もう長い間、この淋しい、話をするものもない、北の青い海の中で暮らして来たのだから、もはや、明るい、賑かな国は望まないけれど、これから産れる子供に、こんな悲しい、頼りない思いをせめてもさせたくないものだ。 子供から別れて、独りさび・・・<小川未明「赤い蝋燭と人魚」青空文庫>
  11. ・・・ が、その小蒸汽の影も見えなくなって、河岸縁に一人取残された自分の頼りない姿に気がつくと、私はきゅうに何とも言えぬ寂しい哀愁を覚えた。そうしてしみじみ故郷が恋しかった。       *    *    * 万年屋の女房はすっかり・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  12. ・・・それじゃ便りのなかったのも無理はないね」「便りがしたくたって、便りのしようがねえんだもの」 女は頷いて、「それからどうしたの?」「それから、間もなく露西亜の猟船というのがやって来たんだ。ところが、向うの船は積荷が一杯で、今度は載・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  13. ・・・にそのことを打ち明けると、谷口さんもひどく乗気になってくれて、その翌日弁当ごしらえをして、二人掛りで一日じゅう大阪じゅうを探し歩きましたが、何しろ秋山という名前と、もと拾い屋をしていたという知識だけが頼りですから、まるで雲を掴むような話、迷・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  14. ・・・クラ/\と今にも打倒れそうな疲れた頼りない気持であった。歯のすり減った下駄のようになった日和を履いて、手の脂でべと/\に汚れた扇を持って、彼はひょろ高い屈った身体してテク/\と歩いて行った。それは細いだら/\の坂路の両側とも、石やコンクリー・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  15. ・・・ こんな、便りない、哀れな心持のものがあろうか! 空想を失ってしまった詩人、早発性痴呆に陥った天才にも似ている! この空想はいつも私を悲しくする。その全き悲しみのために、この結末の妥当であるかどうかということさえ、私にとっては問題ではな・・・<梶井基次郎「愛撫」青空文庫>
  16. ・・・憲兵や警官のみならず、人間にはそういう頼りにならぬ一面が得てありがちなことだ。それ位いなことは、彼にも分らないことはなかった。それでも、何故か、彼は、腹の虫がおさまらなかった。憲兵が、横よこねで跛を引きながら病院へやって来たことを云って面罵・・・<黒島伝治「穴」青空文庫>
  17. ・・・よくあの時に無分別をもしなかったことだと悦こんでみたり、また、これほどに思い込んでいたものでも、無い縁は是非が無いで今に至ったが、天の意というものはさて測られないものではあると、なんとなく神さまにでも頼りたいような幽微な感じを起したりするば・・・<幸田露伴「太郎坊」青空文庫>
  18. ・・・だから頼りになりそうな山崎のお母さんと話し込むと、正体がないほど弱くなってしまうの。 窪田が二十日程して釈放された。すると、直ぐ家へやって来てこんなに大衆的にやられている時に、遺族のものたちをバラ/\にして置いては悪いと云うので、即・・・<小林多喜二「母たち」青空文庫>
  19. ・・・その後、先生が高輪の教会の牧師をして、かたわらある女学校へ教えに行った時分、誰か桜井の家名を継がせるものをと思って――その頃は先生も頼りにする子が無かったから――養子の話まで仄めかして見たのも高瀬だった。その高瀬が今度は塾の教員として、先生・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  20. ・・・ひとに頼りすぎた。ひとのちからを過信した。そのことも、また、そのほかの恥ずかしい数々の私の失敗も、私自身、知っている。私は、なんとかして、あたりまえのひとの生活をしたくて、どんなに、いままで努めて来たか、おまえにも、それは、少しわかっていな・・・<太宰治「姥捨」青空文庫>
  21. ・・・ロンドンからの便りでは、新聞や通俗雑誌くらいしか売っていない店先にも、ちゃんとアインシュタインの著書だけは並べてあるそうである。新聞の漫画を見ていると、野良のむすこが親爺の金を誤魔化しておいて、これがレラチヴィティだなどと済ましているのがあ・・・<寺田寅彦「アインシュタインの教育観」青空文庫>
  22. ・・・八 然り、多年の厳しい制度の下にわれらの生活は遂に因襲的に活気なく、貧乏臭くだらしなく、頼りなく、間の抜けたものになったのである。その堪えがたき裏淋しさと退屈さをまぎらすせめてもの手段は、不可能なる反抗でもなく、憤怒怨嗟でも・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  23. ・・・帰れかしと念ずる人の便りは絶えて、思わぬもののくつわを連ねてカメロットに入るは、見るも益なし。一日には二日を数え、二日には三日を数え、遂に両手の指を悉く折り尽して十日に至る今日までなお帰るべしとの願を掛けたり。「遅き人のいずこに繋がれた・・・<夏目漱石「薤露行」青空文庫>
  24. ・・・ しかし孤独で居るということは、何と云っても寂しく頼りないことである。人間は元来社交動物に出来てるのだ。人は孤独で居れば居るほど、夜毎に宴会の夢を見るようになり、日毎に群集の中を歩きたくなる。それ故に孤独者は常に最も饒舌の者である。そし・・・<萩原朔太郎「僕の孤独癖について」青空文庫>
  25. ・・・他の花魁のように、すぐ後に頼りになる人が出来そうなことはなし、頼みにするのは西宮さんと小万さんばかりだ。その小万さんは実に羨ましい。これからいつも見せられてばかりいるのか。なぜ平田さんがあんなことになッたんだろう。も一度平田さんが来てくれる・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  26. ・・・此時に当り婦人の身に附きたる資力は自から強うするの便りにして、徐々に謀を為すこと易し。仮令い斯くまでの極端に至らざるも、婦人の私に自力自立の覚悟あれば、夫婦相対して夫に求むることも少なく、之を求めて得ざるの不平もなく、筆端或は皮肉に立入りて・・・<福沢諭吉「新女大学」青空文庫>
  27. ・・・ぼくには一昨日大へん元気な便りがあったんだが。今日あたりもう着くころなんだが。船が遅れたんだな。ジョバンニさん。あした放課後みなさんとうちへ遊びに来てくださいね。」 そう云いながら博士はまた川下の銀河のいっぱいにうつった方へじっと眼を送・・・<宮沢賢治「銀河鉄道の夜」青空文庫>
  28. ・・・ それが、却って、云うに云えない今日の新鮮さ、頼りふかい印象を与えているのは、どういうわけなのだろうか。 日本の民主化ということは、大したことであるという現実の例がこの一事にも十分あらわれていると思う。 こういう、云わば野暮な、・・・<宮本百合子「合図の旗」青空文庫>
  29. ・・・明日からまたこうして頼りもない日を迎えねばならぬ――しかし、ふと、どうしてこんなとき人は空を見上げるものだろうか、と梶は思った。それは生理的に実に自然に空を見上げているのだった。円い、何もない、ふかぶかとした空を。―― 高田の来た日・・・<横光利一「微笑」青空文庫>
  30. ・・・自分は淋しさや頼りなさを追い払うために友情を求めたりなんぞはしない。友人の群を心持ちの上の後援として人と争ったりなんぞはしない。自分はただ独りだ。ただ独りでいいのだ。 しかしながらこれは自分の全部であったろうか。自分は自分の内の愛を殺戮・・・<和辻哲郎「自己の肯定と否定と」青空文庫>