・・・あの行衛知れずになった犬というはポインターとブルテリヤの醜い処を搗交ぜたような下等雑種であって、『平凡』にある通りに誰の目にも余り見っとも好くない厭な犬であった。『平凡』では棄てられてクンクン鳴いていた犬の子を拾って育て上げたように書いてあ・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・眼をつぶるとさまざまの花が、プランクトンが、バクテリヤが、稲妻が、くるくる眼蓋の裏で燃えている。トラホオムかも知れない。髪に用捨もなき事やといえば、吉三郎せつなく、わたくしは十六になりますといえば、お七わたくしも十六になりますといえば、吉三・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・いつだったかしら、あたしが新橋駅のプラットフォームで、秋の夜ふけだったわ、電車を待っていたら、とてもスマートな犬が、フォックステリヤというのかしら、一匹あたしの前を走っていって、あたしはそれを見送って、泣いたことがあるわ。かちかちかちかち、・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・女学校で、生理の時間にいろいろの皮膚病の病原菌を教わり、私は全身むず痒く、その虫やバクテリヤの写真の載っている教科書のペエジを、矢庭に引き破ってしまいたく思いました。そうして先生の無神経が、のろわしく、いいえ先生だって、平気で教えているので・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・ こういう不安と煩悶をいだきつつ、学校へ出ては発酵化学の実験をやり、バクテリヤの培養などをやっていた。そして夜は弟と二人で、よく寄席や芝居や活動を見に行って、やるせない心のさびしさを紛らせようとしていたらしい。胃の痛むのによく蕎麦や汁粉・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・ビジテリアンたちは、動物が可哀そうだという、一体どこ迄が動物でどこからが植物であるか、牛やアミーバーは動物だからかあいそう、バクテリヤは植物だから大丈夫というのであるか。バクテリヤを植物だ、アミーバーを動物だとするのは、ただ研究の便宜上、勝・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・「また人間でない動物でもね、たとえば馬でも、牛でも、鶏でも、なまずでも、バクテリヤでも、みんな死ななけぁいかんのだ。蜉蝣のごときはあしたに生れ、夕に死する、ただ一日の命なのだ。みんな死ななけぁならないのだ。だからお前も私もいつか、きっと・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・日本のきょうの社会ではヤミのシャンパンはメチールをまぜてキャバレーの床に流れても、つつましい共稼ぎの若い夫婦の人生を清潔に、たのしくさせるカフェテリヤもなければ、オートマットもない。きょう、やかましい産児制限のことも、こうして、住む家をもた・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫