とし‐おい【年老い】例文一覧 24件

  1. ・・・世間に伝わっているのは、「童かとすれば年老いてその貌にあらず、法師かと思えばまた髪は空ざまに生い上りて白髪多し。よろずの塵や藻屑のつきたれども打ち払わず。頸細くして腹大きに脹れ、色黒うして足手細し。人にして人に非ず。」と云うのですが、これも・・・<芥川竜之介「俊寛」青空文庫>
  2. ・・・「大慈大悲は仏菩薩にこそおわすれ、この年老いた気の弱りに、毎度御意見は申すなれども、姫神、任侠の御気風ましまし、ともあれ、先んじて、お袖に縋ったものの願い事を、お聞届けの模様がある。一たび取次いでおましょうぞ――えいとな。…… や、・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  3. ・・・――二人は離ればなれの町に住むようになり、離ればなれに結婚した。――年老いても二人はその日の雪滑りを忘れなかった。―― それは行一が文学をやっている友人から聞いた話だった。「まあいいわね」「間違ってるかも知れないぜ」 大変な・・・<梶井基次郎「雪後」青空文庫>
  4. ・・・こは年老いたる旅人なり。彼は今しも御最後川を渡りて浜に出で、浜づたいに小坪街道へと志しぬるなり。火を目がけて小走りに歩むその足音重し。 嗄れし声にて、よき火やとかすかに叫びつ、杖なげ捨てていそがしく背の小包を下ろし、両の手をまず炎の上に・・・<国木田独歩「たき火」青空文庫>
  5. ・・・もしこれが年寄りの世話であったら、いつまでも一つ事を気に掛けるような年老いた人たちをどうしてこんなに養えるものではないと。 私たちがしきりにさがした借家も容易に見当たらなかった。好ましい住居もすくないものだった。三月の節句も近づいたころ・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  6. ・・・その力を籠めた言葉には年老いた母親を思うあわれさがあった。「昨日は俺も見ていた。そうしたら、おばあさんがここのお医者さまに叱られているのさ」 この三吉の子供らしい調子はお新をも婆やをも笑わせた。「三吉や、その話はもうしないでおく・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  7. ・・・長いこと、蒲団や掻巻にくるまって曲んでいた彼の年老いた身体が、復た延び延びして来た。寝心地の好い時だ。手も、足も、だるかった。彼は臥床の上へ投出した足を更に投出したかった。土の中に籠っていた虫と同じように、彼の生命は復た眠から匍出した。・・・<島崎藤村「刺繍」青空文庫>
  8. ・・・眼は眩み、年老いたからだは震えた。そしてあの暗い樹のかげで一夜を明そうとした頃は、小竹の店も焼け落ちてしまった。芝公園の方にある休茶屋が、ともかくも一時この人達の避難する場所にあてられた。その休茶屋には、以前お三輪のところに七年も奉公したこ・・・<島崎藤村「食堂」青空文庫>
  9. ・・・私は年老いて孤独な自分の姿を想像で胸に浮かべるようになった。 しかし、これはむしろ私の望むところであった。私か、私は三十年一日のような著作生活を送って来たものに過ぎない。世には七十いくつの晩年になって、まだ生活を単純にすることを考え、家・・・<島崎藤村「分配」青空文庫>
  10. ・・・私の村には、まだ私の小さい家が残って在ります。年老いた父も母も居ります。ずいぶん広い桃畠もあります。春、いまごろは、桃の花が咲いて見事であります。一生、安楽にお暮しできます。私がいつでもお傍について、御奉公申し上げたく思います。よい奥さまを・・・<太宰治「駈込み訴え」青空文庫>
  11. ・・・顔を伏せたままの、そのときの十分間で、彼は十年も年老いた。 この心なき忠告は、いったいどんな男がして呉れたものか、彼にもいまもって判らぬのだが、彼はこの屈辱をくさびとして、さまざまの不幸に遭遇しはじめた。ほかの新聞社もやっぱり「鶴」をほ・・・<太宰治「猿面冠者」青空文庫>
  12. ・・・ 私は、落ちついてふりむいた。山のきこりが、ひっそり立っていた。「女です。女を見ているのです。」 年老いたきこりは、不思議そうな面持で、崖のしたを覗いた。「や、ほんとだ。女が浪さ打ちよせられている。ほんとだ。」 私はその・・・<太宰治「断崖の錯覚」青空文庫>
  13. ・・・足の小さい年老いた女がおぼつかなく歩いていく。楊樹を透かして向こうに、広い荒漠たる野が見える。褐色した丘陵の連続が指さされる。その向こうには紫色がかった高い山が蜿蜒としている。砲声はそこから来る。 五輛の車は行ってしまった。 渠・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  14. ・・・自分はこの事を考えると、何よりも年老いた父に気の毒だ。せっかく一身を立てさせようと思えばこそ、祖先伝来の田地を減らしてまで学資を給してくれた父を、まあ失望させたような有様で、草深い田舎にこの年まで燻ぶらせているかと思うと、何となく悲しい心持・・・<寺田寅彦「枯菊の影」青空文庫>
  15. ・・・ ベルリンの下宿はノーレンドルフの辻に近いガイスベルク街にあって、年老いた主婦は陸軍将官の未亡人であった。ひどくいばったばあさんであったがコーヒーはよいコーヒーをのませてくれた。ここの二階で毎朝寝巻のままで窓前にそびゆるガスアンシュタル・・・<寺田寅彦「コーヒー哲学序説」青空文庫>
  16. ・・・自分の年老いた事を半分自慢らしく半分心細そうに話した。たぶんことしで五十二三歳であったろうと思う。 自分の若かった郷里の思い出の中にまざまざと織り込まれている親しい人たちの現実の存在がだんだんに消えてなくなって行くのはやはりさびしい。た・・・<寺田寅彦「備忘録」青空文庫>
  17. ・・・竹村君は郷里に年老いた貧しい母を残してある事を想い出したのである。五円で皿を買っても暮の払いには困らぬ。下宿や洗濯屋の払いを済ませても二十円あれば足りる。今年は例年の事を思えば楽な暮であるが、去年や一昨年の苦しかった暮には、却って覚えなかっ・・・<寺田寅彦「まじょりか皿」青空文庫>
  18. ・・・さな町でも、商人は店先で算盤を弾きながら、終日白っぽい往来を見て暮しているし、官吏は役所の中で煙草を吸い、昼飯の菜のことなど考えながら、来る日も来る日も同じように、味気ない単調な日を暮しながら、次第に年老いて行く人生を眺めている。旅への誘い・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  19. ・・・ 良う御ききなされ美くしいシリンクス殿。 年老いた私共は、その若人のするほどにも思われなければ又する勢ももう失せて仕舞うたのじゃ――が年若い血のもえる人達はようする力をもってじゃ。 身分の高い低いを思ってするのではござらぬワ。・・・<宮本百合子「葦笛(一幕)」青空文庫>
  20. ・・・ 人々は、年老い、遠い昔に思を走せて居る一代前の人々の歎きを理由のないものとするかもしれない。 わびしくこぼす涙を、年寄の涙もろさから自と流れ出るものと思いなすかもしれない。 けれ共、その心を探り入って見た時に、未だ若く、歓に酔・・・<宮本百合子「大いなるもの」青空文庫>
  21. ・・・ 私が年老いて心持も頭も疲れた時、尚十幾つか若くて私の世話もして呉れ、慰めても呉れ力強い相談相手になって呉れる妹が幼くてなくなった事を思えばどんな気持になるだろう。 私はただ母の手に抱かれその死を悲しむ親属の啜り泣きの裡にこの世を去・・・<宮本百合子「悲しめる心」青空文庫>
  22. ・・・けれども、魔法つかいといわれた年老いた母の救いかたにおいて、宗教裁判とのたたかいかたにおいて、ケプラーのとった方法は、全く近代の科学者らしく実証的であり、科学的でその上行動的であった。ケプラーの伝記「偉大なる夢」をよんだすべての人々は、この・・・<宮本百合子「なぜ、それはそうであったか」青空文庫>
  23. ・・・ 二人の女君は後室の妹君の娘達、二親に分れてからはこの年老いた伯母君を杖より柱よりたよって来て居られるもの、姉君を常盤の君、若やいだ名にもにず、見にくい姿で年は二十ほど、「『誘う水あらば』って云うのはあの方だ」とは口さがない召使のかげ口・・・<宮本百合子「錦木」青空文庫>
  24. ・・・私はゴーリキイの総体を、日向でかすかに香ばしい匂いを放っている年老いた樅の木のようだと感じた。 私たちは少しずつソヴェト文壇の話や、日本の文学のこと、ピリニャークの書いた日本印象記についての不満足な感想等を下手なロシア語で話した。ゴーリ・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」青空文庫>