・・・お花に伴われてかの小川の辺など散歩し、お花が声低く節哀れに唱うを聞けばその沈みはてし心かすかに躍りて、その昔、失敗しながらも煩悶しながらもある仕事を企ててそれに力を尽くした日の方が、今の安息無事よりも願わしいように感じた。 かれは思った・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・ あらゆるものの本体を見得る叡智と渾一に成った愛こそ願わしいものです。 自分は、愛の深化ということは、最も箇性的な、各自の本質的なものだと思わずにはいられません。 従って、既成の倫理学の概念や習俗の力は、いざという時、どれ程の力・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・私たちは、日夜、営々として、人間として願わしくない事情を、より願わしい方向に向けて有形無形に推しすすめようとする直接の感じで生きていると思う。自分の生活に現れて来る不如意や困難の深くひろい原因と、社会のつながりとを理解し、それを細かく理解す・・・ 宮本百合子 「フェア・プレイの悲喜」
・・・ これらの回想にふけるとき、岡倉先生の仕事が再び広く読まれることは、心から願わしいことに思われる。 和辻哲郎 「岡倉先生の思い出」
出典:青空文庫