乳がん
女性に多くみられるがんの代表格―乳がん。その約90%は乳腺の乳管から、約5~10%は腺小葉から発生します。乳がんはしだいに乳腺の外に広がっていきます(浸潤がん)。また、リンパ管や血管を通ってわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)やその周辺のリンパ節に転移することもあります。 非浸潤(ひしんじゅん)がん 発がんしたものの、がんが乳腺内にとどまっているもの。極めて早期の乳がん 浸潤がんⅠ期 腫瘤の大きさが2㎝以下で、同じ側の腋窩(えきか)リンパ節に転移がないもの Ⅱ期 触っても腫瘤がわからない、または2㎝以下の大きさでも同じ側の腋窩リンパ節に転移があってさわると硬い。あるいは、同じ側の腋窩リンパ節転移の有無にかかわらず、腫瘤が2.1~5㎝のもの Ⅲa期 腫瘤が2㎝以下の大きさでも同じ側の腋窩リンパ節に転移があり周囲の組織に癒着している。あるいは、腋窩のリンパ節転移はないが胸骨内側のリンパ節膨張のあるもの Ⅲb期 腫瘤の触知や大きさにかかわらず、同じ側の鎖骨下または鎖骨上リンパ節への転移や上腕部にむくみがある。または腫瘤の大きさ、同じ側の腋窩・鎖骨下・鎖骨上リンパ節の転移、上腕部のむくみの有無にかかわらず、腫瘤が胸郭に達するか、同じ側の乳房の皮膚にむくみ、浸潤、潰瘍などの病変がみられるもの Ⅳ期 乳房以外の皮膚への浸潤、反対側の乳房やリンパ節、肺、胸膜などの遠隔転移があるもの
乳房の役目とメカニズム
左右1対の乳房は、育児のための"乳汁"をつくる乳腺組織を脂肪組織が取り巻き、リンパ管が多数通る構造を有しています。 乳房の表面はふくらんで、半球状になっており、中央付近には周囲よりも色の濃い乳輪があります。 乳汁は、乳腺組織にある腺房細胞でつくられます。この腺房細胞が複数集まると腺房となり、さらに腺房が複数集まると乳腺小葉という、房状の組織になります。 乳腺小葉の外周には、毛細血管が張り巡らされ、この血液から乳汁がつくられます。 これが乳腺小葉につながった乳管を通り、乳頭(乳首)へ運ばれます。乳首近くの乳管には乳管洞というふくらみがあり、ここは乳管から運ばれた乳汁を蓄える場所になっています。
尿を蓄えて排泄する膀胱と尿道
膀胱は、腎臓でつくられた尿を一時的にためておく袋状の器官です。 位置は、恥骨の後方-。膀胱の後ろには直腸があり、女性では子宮と膣に接しています。 膀胱の上部には尿管が左右2つ開口しており、これを尿管口といいます。 また、下部の出口は内尿道口といい、その付近を膀胱頸部といいます。 膀胱の壁は、外側に平滑筋の層があり、内側は粘膜で覆われています。 平滑筋の層には伸縮性があり、膀胱が空のときは1㎝ほどの厚さがありますが、尿がたまってくると引き伸ばされ、3mmほどに薄くなります。 成人の膀胱の容量は約300~500mlです。膀胱はこれだけの尿を蓄える器官であると同時に、たまった尿を排泄する器官でもあります。 尿道は膀胱の尿の出口(内尿道口)と、体外への尿の出口(外尿道口)をつなぐ管状の器官です。 内尿道口の付近には、自分の意思とは無関係に働く"内尿道括約筋"と、自分の意思で働かせられる"外尿道括約筋"があります。 両方の括約筋をゆるめることで尿が尿道に流れ込み、外尿道口から排泄されます。 腎小体でつくられた原尿は尿細管で再吸収され、尿になります。この尿の輸送路を「尿路」といい、腎杯から、腎盂、尿管、膀胱、尿道までを指します。また、腎盂から尿管までを「上部尿路」、膀胱から尿道までを「下部尿路」と呼んでいます。 また、腎杯、腎盂、尿管の壁には平滑筋があり、蠕動運動による収縮の波で、尿を膀胱へと運んでいきます。
ネフロンのしくみ
腎臓の主なはたらきは、血液をろ過して尿をつくることですが、その中枢ともいえるシステムが「ネフロン」です。 ネフロンとは、糸球体とボーマンのうからなる腎小体と、腎小体から続く尿細管までを一つの単位として表わす言葉です。 腎臓はネフロンの集合体であり、左右の腎臓にはそれぞれ約100万個、合計約200万個ものネフロンが存在するといわれています。 ただし、常に働いているのは、ネフロン全体の6~10%ほどです。ネフロンは交代で働くようになっており、かなりの余裕をもって機能しているといえます。 そのため、腎炎などの病気でネフロンの機能の一部が失われても、残りのネフロンによって機能はカバーされます。 ネフロンの糸球体は、毛細血管が糸玉のように丸く集まってできています。大きさは0.2mmほどで、かろうじて肉眼で見ることができます。 腎臓に流れ込んだ血液は、糸球体の毛細血管を通過する間にろ過されます。毛細血管の壁は3層構造になっており、内側から「毛細血管内皮細胞」「糸球体基底膜」「足細胞」といいます。 毛細血管内皮細胞には、直径50~100mmほどの孔がたくさん開いているため、透過性が高くなっています。糸球体基底膜は、細かな線維が絡み合っており、また、足細胞には約5~10mmの小さな孔があるため、赤血球・白血球・血小板やたんぱく質などの大きな分子は通過できません。 糸球体は、血液を段階的にろ過するシステムになっています。 糸球体でろ過された原尿は、皮質と髄質のなかを複雑に走る尿細管で再吸収されます。 尿細管は、糸球体を出て皮質から髄質に向かう「近位尿細管」「下行脚」、Uターンして皮質に向かう「上行脚」「遠位尿細管」と続きますが、ここまではほかの尿細管との分岐や合流が一切ない1本道です。 遠位尿細管の最後は集合管に合流します。 集合管では、ホルモンなどの作用を受けて、最終的な尿の成分調整が行われます。たとえば、脳下垂体から分泌されるバソプレシンというホルモンは、集合管の細胞膜に働きかけて、水を通しやすくします。結果、水が再吸収され、尿が濃縮されて濃い尿がつくられます。 こうして原尿の約1%が尿として腎杯に注がれ、腎盂を通って尿管へと運ばれます。
脳の病気の仕組み(脳梗塞・脳卒中・脳血栓症)
脳は全血液の約15%にも及ぶ大量の血液を必要とします。脳の血管が詰まって血流がとどこおったり、血管が破裂して出血するなどのトラブルが生じると、その部分の脳細胞は破壊され、意識障害や麻痺など、さまざまな症状が突然現れる「脳卒中」が引き起こされます。 脳は硬膜、くも膜、軟膜の3つの膜に覆われています。これらの膜と膜の間で出血がおきたり、俗にいう脳ミソ(脳実質)のなかでおきた出血を総称して「頭蓋内出血」といいます。頭蓋内出血は"外傷性"と"非外傷性"に分けられます。 頭蓋内出血に陥ると、突然からだの左右いずれかに運動麻痺や感覚麻痺が生じ、多くの場合は意識障害を伴います。症状が進行性の場合には、大量の出血があり、脳のヘルニアをおこして呼吸停止に至ります。図は、くも膜の下で出血した(くも膜下出血)脳の底面の様子です。 脳の血管が著しく狭くなったり、詰まるなどして血流がとどこおり、とどこおった先の脳細胞が壊死した状態を「脳梗塞」といいます。脳梗塞には、「脳血栓症」と「脳塞栓症」の2つのタイプがあります。 脳梗塞は前兆なしに突然おこることもありますが、前兆があるケースも少なくありません。「片方の手足がしびれる」、「急に手の力が抜けてものを落としてしまう」、「めまいでまっすぐに歩けない」、「ろれつが回らない」、「人の話をよく理解できない」、「文字が思うように書けない」、「一時的に物が見えにくくなる」などは、脳梗塞の前兆でおこることがあります。 動脈硬化により脳に血栓ができ、脳の血管が詰まったもの 心臓など脳以外の部位でできた"血栓"が流れてきて、脳の血管を詰まらせたもの
“鼻”の2つのはたらき
鼻は、外側から見える「外鼻」と、孔の中の「鼻腔」とに大きく分けられます。 外鼻の中心を鼻背、目尻の間を鼻根、下方の先端を鼻尖、孔の周りを鼻翼といいます。鼻背の上3分の1ぐらいは骨で硬くなっていますが、それより下は軟骨でできています。 鼻孔から鼻腔に入った空気は、鼻道という空気の通り道を通ります。鼻道は、空気と一緒に吸い込まれた"ほこり"などが気管に入らないように鼻毛や粘膜に覆われており、これらのフィルター効果によって、ほこりを絡め取っています。 鼻腔は、鼻中隔によって左右に分けられて、さらに鼻甲介という横のひだで上、中、下3つに分かれています。鼻から吸い込んだ空気は鼻道・咽頭を通り、気管、肺へと進み、肺から出された空気は再び鼻道から体外へ出されます。 また、鼻中隔と鼻甲介は、毛細血管が通る粘膜に覆われています。鼻腔内では、毛細血管の熱を鼻孔から入った空気に伝えて温め、粘膜上皮から分泌される水分で空気に適度な湿気を与えています。このため、鼻道を通過した空気は、温度25~37℃、湿度35~80%の状態に調整されます。 上鼻道内の天井部の粘膜には、「嗅上皮」という切手1枚程度のスペースがあり、においを感知する嗅細胞が200万個も存在します。ここで"においの元"を感知します。 においの元は、空気とともに鼻から入ってくる化学物質です。 鼻腔内の粘液で融解された化学物質は、嗅上皮にある嗅細胞から出る"嗅小毛"という線毛にとらえられ、においの電気信号となります。 においの信号が、嗅球に伝達され、知覚します。さらに、大脳がこの信号を処理すると、においの識別が行われます。 鼻づまりなどをおこし、口で呼吸をしているときには、においがわからなくなります。これは、化学物質が嗅上皮に届かないことによって、においの信号が脳に届きにくいことからおこる現象です。
平衡感覚のシステム
体の平衡は目・耳・手足・脳のネットワークによってつかさどられていますが、なかでも重要な情報を提供しているのが内耳です。 内耳は聴覚をつかさどる蝸牛管と、平衡感覚をつかさどる三半規管と耳石器の三つの器官から構成されています。ちなみに、三半規管と耳石器を合わせて「前庭器官」と呼んでいます。前庭器官からは平衡感覚を伝える前庭神経が出ていて、脳幹へとつながっています。 三半規管は、外側半規管、前半規管、後半規管の3つの半規管からなっています。外側半規管は前後の水平回転、前半規管と後半規管は直交する2軸の垂直回転の動きや速さを感知しています。 頭を動かすと、三半規管のなかの内リンパに流れが生じ、この流れを感覚細胞がとらえ、頭が動いた方向や速さを認識するしくみです。 また、耳石器は水平・垂直方向の傾きと動く速さを感知しています。 耳石器のなかには卵形のう、球形のうと呼ばれる2つの器があり、それぞれには炭酸カルシウムからできた小さな石(耳石)が詰まっています。 頭を動かして、重力の方向が変化すると、耳石が動き、配置にズレが生じますが、このズレを感覚細胞がとらえ、からだの傾きや動きを認識するしくみになっています。
骨の構造
骨は、とても小さな骨細胞(骨芽細胞)の集合体が石灰質化したものです。よくみると複雑な構造をしていて、血管も無数に通っています。 骨の構造は、表面を覆う白色の結合組織である骨膜、その内側の硬い骨質からなる緻密骨、内部に骨髄を含む柔軟な骨質の海綿骨という3層からなります。 骨膜には、神経・血管・リンパ管が通っていて、刺激伝達や栄養の運搬という仕事を担い、骨の成長をつかさどります。 そして、骨膜と緻密骨は、シャーピー線維(結合線維)でしっかりと結合されています。 主成分のカルシウムやリンが厚く沈着した骨質をもつのが、緻密骨です。 緻密骨の中央には、ハバース管という血管を通す管があり、骨細胞に栄養を運ぶ役目を担っています。ハバース管を緻密質の骨が幾重にも包み込んで緻密骨の1単位となり、それが集合体となっています。 そして、緻密骨の集合体の内側には、マングローブの根っこのように密集した柔らかな海綿質でできた海綿骨があり、脊髄を覆っています。 中心にある骨髄腔は、骨はなく空洞になっています。 骨髄腔のなかは、血液をつくる成分の骨髄で満たされています。
ホルモンのはたらきと役割
からだの各器官の活動は、「神経系」と「内分泌系」によって制御されています。 神経系とは、神経細胞と神経線維からなるネットワークで、脳とからだの各部位を結び、情報と指令の受け渡しをしています。 一方、内分泌系とは、からだのある場所で分泌(生産)されたホルモンが血液などを介して全身に運ばれ、各臓器や器官のはたらきを調節するものです。 ホルモンを分泌する器官を「内分泌腺」といいます。さまざまな臓器や器官の機能は、脳の中枢神経によって統合され、内分泌腺から分泌されるホルモンによって、適度な状態に保たれているのです。 ホルモンを分泌している内分泌腺には、脳にある「視床下部」「下垂体」「松果体」、頸部にある「甲状腺」とその後ろにある「副甲状腺」、胸部にある「心臓」、腹部にある「消化管」、「副腎」、「腎臓」、「すい臓」、そして男性では「精巣」、女性では「卵巣」と「胎盤」があります。また、これらの内分泌腺以外にも、肥満細胞から産生されるホルモンもあります。 体内には前述のようにホルモンを分泌するさまざまな内分泌腺がありますが、ホルモン分泌の司令塔としてはたらいているのが、視床下部と下垂体です。 まず、視床下部は、脳からの指令やからだからの情報を受けてホルモンを分泌します。 次に、視床下部から分泌されたホルモンを受けとった下垂体は、からだが必要としているホルモンを末梢の内分泌腺に分泌させるための指令となるホルモンを分泌します。 そして、副腎、甲状腺などの末梢の内分泌腺が、送られてきたホルモンに従って自らのホルモンを分泌することで、からだの生命バランスが保たれているのです。
むし歯と歯周病の仕組み
歯は「食べる」という生命維持に不可欠な行為の出発点―。ところが、歯の大切さを軽視し、治療を先送りにしたり、予防を怠る人が少なくありません。激痛のようなはっきりした症状が現れたときには、すでに歯の疾患はかなり進んでしまっています。 ・0度 歯菌などから出る酸で硬組織(エナメル質)は侵されていますが、穴は空いていません。 フッ素などによる再石灰化処置が必要です。 ・1度 エナメル質だけに穴が空いています。 自覚症状はないことが多いですが、穴は埋めなくてはなりません。 ・2度 エナメル質の下の象牙質まで侵されます。 ここまで進行すると、冷たい水や空気が歯にしみるようになります。 ・3度 歯髄まで侵され、歯髄炎をおこして痛みにおそわれます。 ここまでくると、神経を抜く根管治療が必要になります。 ・4度 歯冠のエナメル質や象牙質はなくなってしまい、歯髄も死んだ状態です。抜歯などの処置が必要になる場合もあります。 歯周組織に炎症がおこる病気を総称して「歯周病」と呼びますが、このうち、炎症が歯肉に限られているものを「歯肉炎」といいます。 歯肉炎の原因菌は好気性菌と呼ばれ、酸素を好むため歯肉の表面にすみつき、炎症を引き起こします。 炎症をおこして腫(は)れてくるのは、歯と歯の間の歯肉です。健康な歯肉はピンク色をしていますが、歯肉炎になると三角の部分が赤くなり、腫れて盛り上がって見えます。炎症が進むにつれて、歯肉はさらに赤く腫れ上がり、ブヨブヨしてきます。