・・・ 地を相するというのは畢竟自然の威力を畏れ、その命令に逆らわないようにするための用意である。安倍能成君が西洋人と日本人とで自然に対する態度に根本的の差違があるという事を論じていた中に、西洋人は自然を人間の自由にしようとするが日本人は自然・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・また友人小宮豊隆・安倍能成両氏の著書から暗示を受けた点も多いように思われるのである。 なお拙著「蒸発皿」に収められた俳諧や連句に関する所説や、「螢光板」の中の天災に関する諸編をも参照さるれば大幸である。・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・幸田露伴氏の七部集諸抄や、阿部小宮その他諸学者共著の芭蕉俳諧研究のシリーズも有益であった。 外国人のものでは下記のものを参照した。B. H. Chamberlain : "Bash and the Japanese Epigra・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
木の葉の間から高い窓が見えて、その窓の隅からケーベル先生の頭が見えた。傍から濃い藍色の煙が立った。先生は煙草を呑んでいるなと余は安倍君に云った。 この前ここを通ったのはいつだか忘れてしまったが、今日見るとわずかの間にもうだいぶ様子・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
・・・しかも長谷川君の家は西片町で、余も当時は同じ阿部の屋敷内に住んでいたのだから、住居から云えばつい鼻の先である。だから本当を云うと、こっちから名刺でも持って訪問するのが世間並の礼であったんだけれども、そこをつい怠けて、どこが長谷川君の家だか聞・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・今度私が此処に現われたのは安倍能成という――これも偉い人で、やはり私の教えた人でありますが――その人が何でも弁論部の方と御懇意だというので、その安倍能成君を通じての御依頼であります。その時私は実は御断りをしたかった。というのは、近来頭の具合・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・ 冬中いつも唇が青ざめて、がたがたふるえていた阿部時夫などが、今日はまるでいきいきした顔いろになってにかにかにかにか笑っています。ほんとうに阿部時夫なら、冬の間からだが悪かったのではなくて、シャツを一枚しかもっていなかったのです。それに・・・ 宮沢賢治 「イーハトーボ農学校の春」
・・・ 封建のモラルをそれなりその無垢を美しさとして肯定して書いた第一作から、第二作の「阿部一族」迄の間には、作者鴎外の客観性も現実性も深く大きく展開されている。芸術家としての鴎外が興津彌五右衛門の境地にのみとどまり得ないで、一年ののちには更・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・そして、それが、文学の大衆性への翹望などというものから湧いている気持ではなくて、当今、人気作家と云われている作家たちは阿部知二、岸田国士、丹羽文雄その他の諸氏の通りみな所謂純文学作品と新聞小説と二股かけていて、新聞小説をかくことで、その作家・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・然し実際の社会を見れば、斯う云う法律によっては罰せられない罪人とも云うべきものが、果して阿部豊一人でありましょうか。また年も若く無智な暁子がその様ないきさつに這入った事には、今日の映画会社の経営方法、スターの製作法、給金は少いのに派出にばか・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
出典:青空文庫