・・・らるる木の切れならずや、それに大金を棄てんこと存じも寄らず、主君御自身にてせり合われ候わば、臣下として諫め止め申すべき儀なり、たとい主君がしいて本木を手に入れたく思召されんとも、それを遂げさせ申す事、阿諛便佞の所為なるべしと申候。当時三十一・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・べらるる木の切れならずや、それに大金を棄てんこと存じも寄らず、主君御自身にてせり合われ候わば、臣下として諫め止め申すべき儀なり、たとい主君がしいて本木を手に入れたく思召されんとも、それを遂げさせ申す事阿諛便佞の所為なるべしと申候。当時未だ三・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・しかしF君が現に一銭の貯もなくて、私をたよって来たとすると、前に私を讃めたのが、買被りでなくて、世辞ではあるまいか、阿諛ではあるまいかと疑われる。修行しようと云う望に、寄食しようと云う望が附帯しているとすると、F君の私を目ざして来た動機がだ・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・そこでは吐き出された炭酸瓦斯が気圧を造り、塵埃を吹き込む東風とチブスと工廠の煙ばかりが自由であった。そこには植物がなかった。集るものは瓦と黴菌と空壜と、市場の売れ残った品物と労働者と売春婦と鼠とだ。「俺は何事を考えねばならぬのか。」と彼・・・ 横光利一 「街の底」
・・・虚偽と阿諛に充ちた作品をさえ喜ぶ人々の喝采は、恐らく不愉快なものだろうと思う。 万人の胸を潤す物を作ることは我々の理想である。我々は端的に「人間」の心に迫って行かなくてはならぬ。しかしいまだ力に乏しい私の眼には、それがほとんど不可能に見・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫