・・・先ず、日本でないところに、戦さがはじまったということで、一つの安堵を得た人々が少くない。つづいて、第二には、こういう風に、実際たたかいがはじまったからには、あんまり平和について理屈っぽいことなど語らないで、目立たず、少しでも特需景気の恩沢を・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・彼女の父「アンドリウのごとき人物の行為は、たとえ高潔な目的と善良な意志から出た正義にもとづくものとしても、一種の帝国主義として許し難い。――と理性は認めることが出来る。しかも心は戦慄せざるを得ない。なぜなら、その帝国主義排斥のまとになって殉・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・イースタン・アンド・オリエンタルホテルの絵葉書。父のほかに「いが栗老人」などと自署された他の人々の寄書がある。ホテルの木立の間に父の筆で、雲を破って輝き出した満月の絵が描加えられてある。父は当時いつも「無声」という号をつかい、隷書のような書・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ と云いながら安堵した様子をかくさず、袂から懐紙の四つに畳んだのを出してくれる。私は、それをとりながら母の顔を見て、お母さま、間違えたな、吝ん坊! と大笑いした。私の勢こんだ様子で、母は小遣いをくれというのかと思って警戒するのであった。・・・ 宮本百合子 「母」
・・・のとし子の心持も私を或る実感で打ったし、女中という、都会の小市民の家庭の中での一つの役割とその型とになかなかはまれず、主婦としての民子は、やっと一ヵ月も経って、とし子の態度が軟らかくなって来たのに些か安堵するというところも、はっきり都会の主・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
・・・殉死した人たちは皆安堵して死につくという心持ちでいたのに、数馬が心持ちは苦痛を逃れるために死を急ぐのである。乙名島徳右衛門が事情を察して、主人と同じ決心をしたほかには、一家のうちに数馬の心底を汲み知ったものがない。今年二十一歳になる数馬のと・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・御臨終の砌、嫡子六丸殿御幼少なれば、大国の領主たらんこと覚束なく思召され、領地御返上なされたき由、上様へ申上げられ候処、泰勝院殿以来の忠勤を思召され、七歳の六丸殿へ本領安堵仰附けられ候。 某は当時退隠相願い、隈本を引払い、当地へ罷越候え・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・沈着で口数をきかぬ、筋骨逞しい叔父を見たばかりで、姉も弟も安堵の思をしたのである。「まだこっちではお許は出んかい」と、九郎右衛門は宇平に問うた。「はい。まだなんの御沙汰もございません。お役人方に伺いましたが、多分忌中だから御沙汰がな・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・詩人ジョン・キーツはこの生活を憧憬して歌う、No, the bugle sounds no more,And twanging bow no more ;Silent is the irony shrillPast ・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
・・・, the bugle sounds no more,And twanging bow no more ;Silent is the irony shrillPast the heath and up the hill ;T・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫