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・・・ 愛は都会の優れた医院から抜擢された看護婦たちの清浄な白衣の中に、五月の徴風のように流れていた。 しかし、愛はいつのときでも曲者である。この花園の中でただ無為に空と海と花とを眺めながら、傍近く寄るものが、もしも五月の微風のように爽かであ・・・
横光利一
「花園の思想」
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・・・冷胆な医院のような白さの中でこれは又若々しい主婦が生き生きと皿の柱を蹴飛ばしそうだ。 その横は花屋である。花屋の娘は花よりも穢れていた。だが、その花の中から時々馬鹿げた小僧の顔がうっとりと現れる。その横の洋服屋では首のない人間がぶらりと・・・
横光利一
「街の底」