・・・貸衣裳の用意も無い事はないのだが、それも一週間ほど前から申込んでいただかないと困るのです、という返事であった。大隅君は、いよいよふくれた。いかにも、「おまえがわるいんだ。」と言わぬばかりの非難の目つきで私を睨むのである。結婚式は午後五時の予・・・ 太宰治 「佳日」
・・・行進 馬子にも衣裳というが、ことに女は、その装い一つで、何が何やらわけのわからぬくらいに変る。元来、化け物なのかも知れない。しかし、この女のように、こんなに見事に変身できる女も珍らしい。「さては、相当ため込んだね。いや・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・あの銀座の有名な化粧品店の、蔓バラ模様の商標は、あの人が考案したもので、それだけでは無く、あの化粧品店から売り出されている香水、石鹸、おしろいなどのレッテル意匠、それから新聞の広告も、ほとんど、あの人の図案だったのでございます。十年もまえか・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・ この映画の頂点はヒロインが舞台で衣裳をかなぐり捨てブロンドのかつらを叩きつけて煩わしい虚偽の世界から自由な真実の天地に躍り出す場面であって、その前のすべてのストーリーはこの頂点へ導くための設計であるように見える。一九〇九年型の女優が一・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・デテイルがないだけに全体の輪郭だけに意匠が集注されるためかもしれない。 インパラという動物の跳躍も見物である。十数尺の高さを水平距離で四十尺も一飛びにとぶのである。何か簡単な器械を人間のからだへつけて、この動物のようにとんで歩くスポーツ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・このレヴューからあらゆる不純なものをことごとく取り去ってしまったもの、ちぐはぐな踊り子の個性のしみを抜き、だらしのない安っぽい衣装や道具立てのじじむささを洗い取ったあとに残る純粋の「線の踊り」だけを見せるとすれば、それは結局このフィッシンガ・・・ 寺田寅彦 「踊る線条」
・・・赤天狗青天狗銀天狗金天狗という順序で煙草の品位が上がって行ったが、その包装紙の意匠も名に相応しい俗悪なものであった。轡の紋章に天狗の絵もあったように思う。その俗衆趣味は、ややもすればウェルテリズムの阿片に酔う危険のあったその頃のわれわれ青年・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・たとえば帽子の代わりにキャベツをかぶって銀座を散歩した男があるとすれば、これは確かにオリジナルな意匠としての記録に価する。しかしこのレコードは決して破られない。なんとならば、再びキャベツを用いたのでは、キャベツを用いたという質的レコードは破・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・それの草稿が遺族の手もとにそのままに保存されていたのを同氏没後満三十年の今日記念のためにという心持ちでそっくりそれを複製して、これに原文のテキストと並行した小泉一雄氏の邦文解説を加えさらに装幀の意匠を凝らしてきわめて異彩ある限定版として刊行・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
・・・例えば山出しの批評も時には三越意匠部の人の参考になるかもしれず、生蕃人の東京観も取りようでは深刻な文明批評とも聞える事があるかもしれない。 この稿を起したもう一つの理由は、友人としての津田君の隠れた芸術をいくぶんでも世間に紹介したいとい・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
出典:青空文庫