・・・もう少し心とからだの安息を与えて、思いのままに彼の欲する仕事に没頭させた方が、かえって本当にこの稀有な偉人を尊重する所以でもあり、同時に世界人類の真の利益を図る所以にもなりはしまいか。これも考えものである。 今度のノーベル・プライズのた・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・パリのまん中でパリジャンを「異人」と呼び、アンバリードでナポレオンの墓を見て「ナンダやっぱりヤソじゃないか」と言ったとある。H夫人は、日本からわざわざ持参のホオズキを鳴らしながら、相手かまわずいっさい日本語で買い物をして歩いた。自分はこの記・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・宗教や伝説や偉人やその他一般に過去を題材とした新しい画から「新しい昔の幻像」を吹き込まれた例を捜してみたが容易に思い出せない。帝展以外の方面もひっくるめてやっと思い出しのが龍子の「二荒山の絵巻」、誰かの「竹取物語」、百穂の二、三の作、麦僊の・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・と降参人たる資格を忘れてしきりに汗気かんきえんを吹いている、すると出し抜に後ろから Sir ! と呼んだものがある、はてな滅多な異人に近づきはないはずだがとふり返ると、ちょっと人を狼狽せしむるに足る的の大巡査がヌーッと立っている、こちらはこ・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・たいていは異人のようであった。しかしいろいろな顔をしていた。空が曇って船が揺れた時、一人の女が欄に倚りかかって、しきりに泣いていた。眼を拭く手巾の色が白く見えた。しかし身体には更紗のような洋服を着ていた。この女を見た時に、悲しいのは自分ばか・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・けだし天は俳諧の名誉を芭蕉の専有に帰せしめずしてさらに他の偉人を待ちしにやあらん。去来、丈草もその人にあらざりき。其角、嵐雪もその人にあらざりき。五色墨の徒もとよりこれを知らず。新虚栗の時何者をか攫まんとして得るところあらず。芭蕉死後百年に・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
黄銅時代の為○オイケンの偉人と人生観より、p.9「精神の領分に於ては、個々の部分の総和其ものが決して全体を生じないと云う点に一致して居る」 此は、二人の人間の精神的産物は、二つの傾向の中間であると云う・・・ 宮本百合子 「結婚に関し、レークジョージ、雑」
・・・このことは、ただ彼が成功した一人の素人作家であって、十九世紀ロシアのリアリスト劇作家オストロフスキーと、輝やかしい同姓異人であるということだけではない。除村吉太郎氏の紹介に記されているソヴェト同盟の第一次五ヵ年計画達成以後の文学的年代は、そ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 次いで、マリーナ・イワーノヴナ、最後にジェルテルスキーの長い脚が、左右、左右、階段の上に隠れるのを見届けると、下の小さい娘は自分達の部屋へかけ込み、息を殺して、「お婆ちゃん、三人、異人さん」と報告した。 ・・・ 宮本百合子 「街」
・・・私は希望に充ちた心持ちで、人生の前に――特に偉人の内生の前に――もっともっと謙遜でなくてはならないと思う。そして底力のある勇気の徐々によみがえって来ることを意識する。二 ただ「知る」だけでは何にもならない、真に知ることが、体・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫