・・・ましてや、微風のような異性の間の情味や生活の歓喜の一つの要素としての感覚・官能の解放は圧殺されていた。きょう私たちは人民が人民の主人となった解放のすがすがしさに、思わず邪魔な着物はぬぎすてて、風よふけ日よおどれと、裸身を衆目にさらしているの・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・こういう共感が異性の間に生じたとき、これが恋愛の感情でないという場合は非常にすくない。人間同士の調和の最も深いあらわれは、こういうハーモニーにこそあるのだから。 モナ・リザは、彼女の良人に、レオナルド・ダ・ヴィンチとの間に生まれたような・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・そしてこれらの雑誌がともかく刊行されているのは主として東京以西あるいは近隣の地方都市においてであって、東北、北海道地方からこういう種類の雑誌は発行されないらしい。この事実を、東北地方の窮乏を現実の背景として見て、私は一般読者の関心をよびおこ・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・ 異性の友情も、私は微妙な陰翳のあるまま朗らかに肯定し暢々保って行きたい。けれども、むずかしいのは私の根性が思う通り垢抜けてくれないことだ。〔一九二四年六月〕 宮本百合子 「大切な芽」
・・・ 彼等はもう、実際人として尊敬するには塵ほどの価値もないような女が、只、風俗を利用し、婦人を冷遇する男子は、紳士として扱われないと云う異性の弱点につけ込んで、放縦な、贅沢な寄生虫となっている厭わしさを見抜いています。 又、腹の中では・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・心の中で、あらゆる異性に向って動揺するものがすっかり鎮り、落付くだろう。無自覚でするコケティッシュな浮々さが沈み、真個に延るべきものが、ぐんぐん成育するに違いないと信じて居たから、自分は、怯じて居られなかった。 今、恐らく一生、自分は此・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・だから山の獣が自然の魅力で異性を見出し、それに引きつけられて行く限りでは、そこには人間の雌である女があり、人間の雄である男が存在するばかりであった。家族関係というふうのものも近代の意味では確立していなかったから、互いにとって親族的な縦横の関・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・そのあわただしい中に、地方長官の威勢の大きいことを味わって、意気揚々としているのである。 閭は前日に下役のものに言っておいて、今朝は早く起きて、天台県の国清寺をさして出かけることにした。これは長安にいたときから、台州に着いたら早速往こう・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・これまで一度も女だと思ったことがなかったが、今女だと思おうとしても、それがほとんど不可能である。異性のものだという感じは所詮起らなかった。 道具を片附けてしまって起って行くのを、主人は見送って、覚えず微笑した。そして自分の冷澹なのを、や・・・ 森鴎外 「独身」
・・・君が殆ど異性に関する知識を有せぬことを発見した処に存ずる。これは或は私の見錯りであったかも知れない。しかし私は今でも君に欺かれたとは信ぜない。 私はF君に秘密が無かったとは思わない。又君がうそを衝かなかったとは思わない。しかし君は故らに・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫