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・・・ 背こそ仲平ほど低くないが、自分も痘痕があり、片目であった翁は、異性に対する苦い経験を嘗めている。識らぬ少女と見合いをして縁談を取りきめようなどということは自分にも不可能であったから、自分と同じ欠陥があって、しかも背の低い仲平がために、・・・
森鴎外
「安井夫人」
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・・・と彼は云うと、威勢好く表へ立った。 勘次は秋三の微笑から冷たい風のような寒さを感じた。彼は暫く庭の上を見詰めたまま動けなかった。「すまんこっちゃわ、えらい厄介かけてのう、大きに大きに。」 勘次も安次に叩頭されればされる程、不思議・・・
横光利一
「南北」