・・・巨椋池の一端に達したらしいが、まだ暗くて遠くは見晴らせない。そういうふうにしていつとはなしに周囲が池らしくなって来たのである。 舟はもう蓮の花や葉の間を進んでいる。その時に、誰いうともなく、蓮の花の開くときに音がする、ということが話題に・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
・・・皇室に対して忠であることは、「一旦緩急あれば義勇公に奉ずる」ことであった。対内的でなくして対外的であった。徳川時代の主従関係のように個人的なものではなく、対国家の関係であった。これだけの相違が我々父子の間に存している。その事をまず小生は前記・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・ただほんの一端が見えるだけである。 京都の湿気のことを考えると、私にはすぐ杉苔の姿が浮かんでくる。京都で庭園を見て回った人々は必ず記憶していられることと思うが、京都では杉苔やびろうど苔が実によく育っている。ことに杉苔が目につく。あれが一・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫