・・・ 指で示すのを見ると、やはり同じ投書欄で、愛子という人の投書に、何事も〔三字伏字〕のお為だ云々というところの三字がある。「…………」「いいですか? 一ヵ所じゃないですよ。こっちにもある。……こオっと……これ、これはどう云うんです・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・そして、子の母となりながら、妻の永い病に精根つき果てたような良人へ気をかねて、その愛子をのこして家を去る決心にまで追いこまれなければならなかったということも、男の一生にはない女のあわれさであると思う。 ロマン・ローランは、人間の社会にの・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・ 父親の波多江さんが、愛子を解剖に付したことはこの際極めて有意義であったと思う。金一君の死が世人に与えた教訓は、その解剖の結果親の心得べき科学の知識で裏づけられた。 どちらかと云えば例外なこの事件だけれども、世の父母たちは多くのこと・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・私のように、中国文化について知らない者でさえも、謝冰心女士の名は聞いて久しいし、郭沫若と云えば、彼が日本の家の内に愛妻と愛子たちとをのこし故国へ向って脱出した朝の物語までを、心に銘して知っている。 だが、中国の社会の歴史は、近代企業とし・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ 女主人公アサとの対照として作者は用意ふかく愛子、シゲという二つのタイプを描き出し、結婚に対する態度、工場の高度の技術化のためにおこる解版女工の失業についての身のふりかたにコントラストを示している。どうせ共稼ぎの結婚なんて馬鹿くさくて、・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・ 寝食を忘れて愛子を取り守って居る母親は喜ばしい安心に心からの眠りを続けて居るのです。 この二つの寝顔を見守って彼女は目をこすりながら微笑するのでした。 宮本百合子 「二月七日」
・・・に同じ作者によって書かれている自分の家系の物語、愛子物語をあわせ読むと、舟橋氏のヒューマニズムが一般人間性の観念にあやまられ、血肉の情に絡まって今日、どのような洞に頭を向けているかが実に明瞭に分るのである。 このハッピー・エンドのヒュー・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ほかの従兄弟らは、依然として土曜日になると樺の鞭をくって泣き声を立てつづけたが、ゴーリキイの抵抗は遂に祖父さんを屈服させることが出来たのであった。 アレキサンドル二世が形式的な農奴解放を行ったのは一八六一年であった。ゴーリキイが生れた時・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・さんの投書と、「愛子」さんの投書の中に、共産党という三字があって、これを幸とつかまえられたのです。 四十日ばかり経つと、いつの間にか、調べの中心点がかわってきた。初め私は日本プロレタリア文化連盟のことで調べられていたはずなのに、今度はお・・・ 宮本百合子 「ますます確りやりましょう」
・・・そうしてこの寛仁な国司が十七年前に鷲にさらわれた愛子であることを、一歩ずつ老夫婦に飲み込ませて行く。それに伴なって老夫婦は徐々に歓喜の絶頂に導かれて行くのであるが、それはまた読者にとっても歓喜の絶頂となるのである。 三島の明神とはこの苦・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫