近ごろ近ごろ、おもしろき書を読みたり。柳田国男氏の著、遠野物語なり。再読三読、なお飽くことを知らず。この書は、陸中国上閉伊郡に遠野郷とて、山深き幽僻地の、伝説異聞怪談を、土地の人の談話したるを、氏が筆にて活かし描けるなり。・・・ 泉鏡花 「遠野の奇聞」
・・・歿後遺文を整理して偶然初度の原稿を検するに及んで、世間に発表した既成の製作と最始の書き卸しと文章の調子や匂いや味いがまるで別人であるように違ってるのを発見し、二葉亭の五分も隙がない一字の増減をすら許さない完璧の文章は全く千鍜万錬の結果に外な・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・彼の現実認識のよりどころは個性の感性に置かれているのであったが、その感性そのものも「オフェリア遺文」が計らずも告白している通り統一された具象性を持たないものであった。「言葉というものは、こんがらかそうと思えばいくらだってこんがらかすことが出・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫