・・・ 又たとい、如何程経済状態は良好であるにしろ、今日、そう云う階級に属すあらゆる人々が、彼等の被雇人に対して、全く彼我を忘れた愛で、十年十五年の医療費を提供すると思えるでしょうか。 死ぬにまで、苦々しい施恩と卑下に縛られなければならな・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・たらい、タオル、シャボン、箒、盆、皿、ナイフ、フォーク、スプーンなどという必需品さえなかった。医療材料、薬品も揃っていない。働いている人々といえば無能な医者と官僚主義に頭も心も痲痺している役人と、疲労困憊して自身半病人である少数の人々ばかり・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・ただ、必要な場合の医療的処置としてうけ入れていたのであったが、昨今は急に産児を制限する範囲のことは賢い親の義務の一つであるとして、カソリックの坊さんまで、結婚しようとする若い男女の民衆に忠言するようになって来ている。アメリカでは家族の人員に・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
・・・允子の第二の出産に於てのしっかり工合の中には、作者によって彼女の人道的医療がふれられていても、何だか硬く、自分の身を守る決心をした女の底冷たさが流れているのはどういうものだろう。息子との間は、生活的本質で断たれっぱなしで、そこはそれなりで、・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・おのずから、殖える人数が楽しく生きて行けるだけの衣料と食物と燃料とが湧き出して来る家庭というような、魔法の小屋は、今日、日本のどこにもあり得ない。魔法の小屋でない「家庭」へ表口から帰された女子失業群が、溢れ出した裏口は、真直、街頭につづいて・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ まず私は、人間の心のあらゆる領域、すなわち科学、芸術、宗教、道徳その他医療や生活方法の便宜などへの関心等によって代表せられる人間の生のあらゆる活動が、なお明らかな分化を経験せずして緊密に結合融和せる一つの文化を思い浮かべる。そこで・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫