・・・もの、珍しいもの、そう云う限りない都会の美的富の種々を自由に、負担なく眺め、其等の形、色、線と音との微妙な錯綜から湧き出て心の裡に流れ渡る快感、空想、美の又異った一つの分野の蓄積が、何より嬉しい私共の獲物なのだ。 人間の推移する興味を素・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・二羽の鷹はどういう手ぬかりで鷹匠衆の手を離れたか、どうして目に見えぬ獲物を追うように、井戸の中に飛び込んだか知らぬが、それを穿鑿しようなどと思うものは一人もない。鷹は殿様のご寵愛なされたもので、それが荼の当日に、しかもお荼所の岫雲院の井戸に・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・私は世界の運動を鵜飼と同様だとは思わないが、急流を下り競いながら、獲物を捕る動作を赤赤と照す篝火の円光を眼にすると、その火の中を貫いてなお灼かれず、しなやかに揺れたわみ、張り切りつつ錯綜する綱の動きもまた、世界の運動の法則とどことなく似てい・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・を読む人は、ロシア人の心があたかも獲物をねらう鷲のごとくこの力をねらっているように感じるだろう。そうしてロシアにならば百のラスプウチンが現われても不思議はないと思うだろう。かくのごとく信じようとする傾向の強い人民の内に、全然信ずべきものを見・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫