・・・ けれども、おいそれとは今言ったような工合ですから、いずれ、その何んでさ。ま、ま、めし飲れ、熱い処を。ね、御緩り。さあ、これえ、お焼物がない。ええ、間抜けな、ぬたばかり。これえ、御酒に尾頭は附物だわ。ぬたばかり、いやぬたぬたとぬたった婦・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・……「これだけの子供もあるというのに、あなたは男だから何でもないでしょうけれど、私にはおいそれと別れられるものと思って? あなたには子供が可愛いいというのがどんなんか、ちっとも解ってやしないのです。私が間にはいって嘗めた苦労の十が一だっ・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・頁が足らんからと云うて、おいそれと甕から這い上る様では猫の沽券にも関わる事だから是丈は御免蒙ることに致した。「猫」の甕へ落ちる時分は、漱石先生は、巻中の主人公苦沙弥先生と同じく教師であった。甕へ落ちてから何カ月経ったか大往生を遂げた猫は・・・ 夏目漱石 「『吾輩は猫である』下篇自序」
・・・「お前さんも恨があるというからには、頼んだところで、おいそれと聞いてはくれまい。けれども、私も一旦おうと引受て、かくまったからには、御存分にと出すことあ出来ない。たってというなら、先ずこの私を切るなりつくなりしてからにしておくんなさい」・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・まさか、政府も強制して買上げたからといって、おいそれと出て来る今年の米でないことは十分わかっているだろう。もし、そうだとするならば、第二の問が生れて来る。出来にくい相談と分っているものを唯さえ、無策無策で信頼を失っている今日の政府が、念入り・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・ その話をきいた時はもう締切り間もなく、おいそれと云って、まとまった筋書が立たない。自分はもし時間があったら、ソヴェトの現代作家が作品の中に婦人をどうとり扱っているか、そしてそれは、例えばツルゲーニェフやチェホフ、トルストイでもよい、革・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
出典:青空文庫