・・・いつかおれはあの男が、海へ卒塔婆を流す時に、帰命頂礼熊野三所の権現、分けては日吉山王、王子の眷属、総じては上は梵天帝釈、下は堅牢地神、殊には内海外海竜神八部、応護の眦を垂れさせ給えと唱えたから、その跡へ並びに西風大明神、黒潮権現も守らせ給え・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・踏みとどまる以上は、極力その階級を擁護するために力を尽くすか、またはそうはしないかというそれである。私は後者を選ばねばならないものだ。なぜというなら、私は自分が属するところの階級の可能性を信ずることができないからである。私は自己の階級に対し・・・ 有島武郎 「想片」
・・・ よし、ただ、南無とばかり称え申せ、ここにおわするは、除災、延命、求児の誓願、擁護愛愍の菩薩である。「お爺さん、ああ、それに、生意気をいうようだけれど、これは素晴らしい名作です。私は知らないが、友達に大分出来る彫刻家があるので、門前・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・そのたびに自分は、その牛を捕えやりつつ擁護の任を兼ね、土を洗い去られて、石川といった、竪川の河岸を練り歩いて来た。もうこれで終了すると思えば心にも余裕ができる。 道々考えるともなく、自分の今日の奮闘はわれながら意想外であったと思うにつけ・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・ 勿論、演壇または青天井の下で山犬のように吠立って憲政擁護を叫ぶ熱弁、若くは建板に水を流すようにあるいは油紙に火を点けたようにペラペラ喋べり立てる達弁ではなかったが、丁度甲州流の戦法のように隙間なく槍の穂尖を揃えてジリジリと平押しに押寄・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・しかるに、アカデミックの芸術は、旧文化の擁護である。旧道徳の讃美である。 私達は、IWWの宣言に、サンジカリストの行動に、却って、芸術を見て、所謂、文芸家の手になった作品に、それを見ないのは何故か。彼等の作品が、商品化されたばかりでなく・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・それは詩歌のみならず、凡ての芸術はいつの時代にもその時代の文化の、擁護を以て任じて来たからである。現在に於いても、大凡の芸術は、これまでの文化の擁護と見做されていると見るのが至当であろう。 然し敢て言うが、これらは私の求むるところの詩で・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・ しかし、厳密にいえば、健全なる家庭生活以外には、家族制度の基礎がありとは、考えられないのであるが、すでに、家庭にしてかくのごとくとせば、学校がこれに代り、もしくは社会が、児童を擁護しなければならぬのは当然のことです。幼弱者虐待防止案と・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・もしこの世の中に、彼等を心から愛する、文学者、芸術家、若くは真理に忠実な科学者がなかったら、何人か、このものいわぬ謙虚な動物に対して、擁護すべく注意を喚起したものがあったでしょう。多くの人間は、動物を人類に隷属するものの如く考えて来た。しか・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・ 私は、児童芸術に没頭していますが、真に、児童の世界を擁護し、児童のためにつくす施設に乏しいのを感ぜずにいられません。浅薄なイデオロギーによって、児童を在来の文化に囚えんとするもの、もしくは、政治的目的意識によって階級観念を植付けんとす・・・ 小川未明 「文化線の低下」
出典:青空文庫