・・・「そこでそのケイザイやゴラクが悪くなるというと、不平を生じてブンレツを起こすというケッカにホウチャクするね。そうなるのは実にそのわれわれのシンガイでフホンイであるから、やはりその、ものごとは共同一致団結和睦のセイシンでやらんといかんね。・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・ただ今から、暫時の間、そのご文の講釈を致す。みなの衆、ようく心を留めて聞かしゃれ。折角鳥に生れて来ても、ただ腹が空いた、取って食う、睡くなった、巣に入るではなんの所詮もないことじゃぞよ。それも鳥に生れてただやすやすと生きるというても、まこと・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・又病弱者老衰者嬰児等の中には全く菜食ではいけない人もありましょう、私どもの派ではそれらに対してまで菜食を強いようと致すのではありません。ただなるべく動物互に相喰むのは決して当然のことでない何とかしてそうでなくしたいという位の意味であります。・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ばけもの奇術師が、よく十二三位までの女の子を、変身術だと申して、ええこんどは犬の形、ええ今度は兎の形などと、ばけものをしんこ細工のように延ばしたり円めたり、耳を附けたり又とったり致すのをよく見受けます。」「そうか。そして、そんなやつらは・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・ お君は父親を起すまいと気を配りながら折々隣の気合(をうかがって、囁く様に恭二に話した。 川窪で若し断わられたらどうしよう、東京中で川窪外こんな相談に乗ってもらう家がない。 どうもする事が出来ずに父親が帰りでもしたら又何と云われ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・王 一っ時じゃ、ただの―― 一つ事を一日以上考えて居るのは大脳を神からよう授からなんだものの致す事での。 世間でわしは賢明じゃと申す通りの頭を持って居るのじゃ。法 さてさて、 鏡のかげんであばたもえくぼ 己惚の生・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・死なせに起すのだと思うので、しばらくは詞をかけかねていたのである。 熟睡していても、庭からさす昼の明りがまばゆかったと見えて、夫は窓の方を背にして、顔をこっちへ向けている。「もし、あなた」と女房は呼んだ。 長十郎は目をさまさない・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・絶えず隙間を狙う兇器の群れや、嫉視中傷の起す焔は何を謀むか知れたものでもない。もし戦争が敗けたとすれば、その日のうちに銃殺されることも必定である。もし勝ったとしても、用がすめば、そんな危険な人物を人は生かして置くものだろうか。いや、危い。と・・・ 横光利一 「微笑」
・・・複雑に結びついた感情ほど不安を起こす程度がはなはだしい。 しかしこれらの感情のすべてが一個人に集まるのは、ただ彼に対してのみである。それゆえに彼は何人よりも激しく私を不安ならしめる。私は一人でいて彼の名を思い浮かべただけでも、もういらい・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫