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・・・土間のなかばで、そのおじやのかたまりのような四人の形が暗くなったのは、トタンに、一つ二つ電燈がスッと息を引くように赤くなって、橋がかりのも洗面所のも一齊にパッと消えたのである。 と胸を吐くと、さらさらさらさらと三筋に……こう順に流れて、・・・
泉鏡花
「眉かくしの霊」
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・・・ 千代が、さしずをされずに拵えるものは、何でもない、彼女自身の大好物な味噌おじや丈だとわかったとき、さほ子は、良人の寝台の上に突伏し声を殺して笑い抜いた。 千代は、美しい眉をひそめながらぴんと小指を反せて鍋を動し、驚くほどのおじやを・・・
宮本百合子
「或る日」