・・・「のの様、おっぱい。……のの様、おっぱい。」「まあ、のの様ではありません、母ちゃんよ。」「ううん、欲くないの、坊、のんだの、のの様のおっぱい。――お雛様のような、のの様のおっぱい。」「おや、夢を御覧だね。」 樹島は肩の震・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
赤ちゃんが、おかあさんの おっぱいを すぱすぱと のんで いました。そばで みて いた つね子ちゃんは、「おいしそうね。」と いいました。「おまえも こう して のんだのですよ。」と、おかあさんが おっしゃいました。つ・・・ 小川未明 「おっぱい」
・・・ 母は、一歳の次女におっぱいを含ませながら、そうして、お父さんと長女と長男のお給仕をするやら、子供たちのこぼしたものを拭くやら、拾うやら、鼻をかんでやるやら、八面六臂のすさまじい働きをして、「お父さんは、お鼻に一ばん汗をおかきになる・・・ 太宰治 「桜桃」
・・・ 三畳間で、子供たちは、ごはん、夫は、はだかで、そうして濡れ手拭いを肩にかぶせて、ビイル、私はコップ一ぱいだけ附合わせていただいて、あとはもったいないので遠慮して、次女のトシ子を抱いておっぱいをやり、うわべは平和な一家団欒の図でしたが、・・・ 太宰治 「おさん」
・・・燃き火のまわりで、子供におっぱいをやっているひともあったりして、そのきっちりと手拭でくくられた頭の上に大きい水中眼鏡がのっている。天草とりの日の浜じゅうの大さわぎや、大きい天草のたばをかついで体を二つに曲げて運んでいる女の活動も、思い出され・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
小さい妹の、激しい泣き声に目をさましたのは、彼れ此れもう六時であった。 三時頃に一度お乳を遣った丈だったので、空おっぱいをあずけたまま、先(ぐお乳を作りに配膳室へ出て行った。 寝間着のお引きずりのまま、二人が腫れぼ・・・ 宮本百合子 「盗難」
出典:青空文庫