・・・この若々しい、少しおめでたそうに見える、赤み掛かった顔に、フレンチの目は燃えるような、こらえられない好奇心で縛り附けられている。フレンチのためには、それを見ているのが、せつない程不愉快である。それなのに、一秒時間も目を離すことが出来ない。こ・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・こんなことを言っている、おめでたさ、これも、ただものでない。 その、ただものでない男が、さて、と立ちあがって、何もない。為すべきことが何もない。手がかり一つないのである。苦笑である。 発表をあきらめて、仕事をしているというのは、これ・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・牽牛織女のお二人に対してその夜のおよろこびを申し上げるしるしではなかろうかとさえ思っていたものである。牽牛織女のおめでたを、下界で慶祝するお祭りであろうと思っていたのだが、それが後になって、女の子が、お習字やお針が上手になるようにお祈りする・・・ 太宰治 「作家の手帖」
出典:青空文庫