・・・……さても三人一つ島に流されけるに、……などや御身一人残り止まり給うらんと、……都には草のゆかりも枯れはてて、……当時は奈良の伯母御前の御許に侍り。……おろそかなるべき事にはあらねど、かすかなる住居推し量り給え。……さてもこの三とせまで、い・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・「神、その独子、聖霊及び基督の御弟子の頭なる法皇の御許によって、末世の罪人、神の召によって人を喜ばす軽業師なるフランシスが善良なアッシジの市民に告げる。フランシスは今日教友のレオに堂母で説教するようにといった。レオは神を語るだけの弁才を・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ と祖母がせかせかござって、「御許さい、御許さい。」 と遠慮らしく店頭の戸を敲く。 天窓の上でガッタリ音して、「何んじゃ。」 と言う太い声。箱のような仕切戸から、眉の迫った、頬の膨れた、への字の口して、小鼻の筋から頤・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ なお仏師から手紙が添って――山妻云々とのお言、あるいはお戯でなかったかも存ぜぬが、……しごとのあいだ、赤門寺のお上人が四五度もしばしば見えて、一定それに擬え候よう、御許様のお母様の俤を、おぼろげならず申伝えられましたるゆえ――とこの趣・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・この彦太楼尾張屋の主人というは藐庵や文楼の系統を引いた当時の廓中第一の愚慢大人で、白無垢を着て御前と呼ばせたほどの豪奢を極め、万年青の名品を五百鉢から持っていた物数寄であった。ピヤノを買ったのも音楽好きよりは珍らし物好きの愚慢病であった。が・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・その姉妹にマリヤといふ者ありて、イエスの足下に坐し、御言を聴きをりしが、マルタ饗応のこと多くして心いりみだれ、御許に進みよりて言ふ「主よ、わが姉妹われを一人のこして働かするを、何とも思ひ給はぬか、彼に命じて我を助けしめ給へ」主、答へて言ふ「・・・ 太宰治 「律子と貞子」
・・・くうた事のないのは杉の実と万年青の実位である。〔『ホトトギス』第四巻第六号 明治34・3・20 一〕○覆盆子を食いし事 明治廿四年六月の事であった。学校の試験も切迫して来るのでいよいよ脳が悪くなった。これでは試験も受けられぬというの・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・一つは丸い小い葉で、一つは万年青のような広い長い葉で、今一つは蘭のような狭い長い葉が垂れて居る。ようよう床屋の前まで来たのであった。また曲った道をいくつも曲って、とうとう内へ帰りついて蒲団の上へ這い上った。燈炉を燃やして室は煖めてある。湯婆・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・ あの時、この後も御たよりをさしあげるのを御許し下さいと云いながら何となしせわしさにとりまぎれて一度もあげなかったけれどもどうだろう。 私の筆不性から、又あの人の気まぐれだろうと思われてしまう事は辛い事である。 彼の人が斯う云う・・・ 宮本百合子 「ひととき」
出典:青空文庫