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・・・それで甘露的恩命が僕等両人に下ったのである。兄夫婦とお増と外に男一人とは中稲の刈残りを是非刈って終わねばならぬ。民子は僕を手伝いとして山畑の棉を採ってくることになった。これはもとより母の指図で誰にも異議は云えない。「マアあの二人を山の畑・・・
伊藤左千夫
「野菊の墓」
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・・・演説をやらんで何を致しますかと伺うと、ただ出席してみんなに顔さえ見せれば勘弁すると云う恩命であります。そこで私も大決心を起して、そのくらいの事なら恐るるに及ばんと快く御受合を致しました。――今日はそう云う条件の下にここに出現した訳であります・・・
夏目漱石
「文芸の哲学的基礎」