・・・平七は二十三歳にて切腹し、小姓磯部長五郎介錯いたし候。小野は丹後国にて祖父今安太郎左衛門の代に召し出されしものなるが、父田中甚左衛門御旨に忤い、江戸御邸より逐電したる時、御近習を勤めいたる伝兵衛に、父を尋ね出して参れ、もし尋ね出さずして帰り・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・なぜなら、それらの人々は感覚と云う言葉について不分明であったか若くは感覚について夫々の独断的解釈を解放することが不可能であったか、或いは私自身の感覚観がより独断的なものであったかのいずれかにちがいなかったからである。だが、今の所、「分らない・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・素朴な心は解釈において単純であり、省察において粗雑である。しかしその本能的な直覚においては内生の雑駁な統一の力の弱い文明人よりはるかに鋭いのである。恐らく美に対するその全存在的な感激において、当時の我々の祖先はその後のどの時代の子孫よりも優・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫