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・・・いわゆる三計塾で、階下に三畳やら四畳半やらの間が二つ三つあって、階上が斑竹山房のへんがくを掛けた書斎である。斑竹山房とは江戸へ移住するとき、本国田野村字仮屋の虎斑竹を根こじにして来たからの名である。仲平は今年四十一、お佐代さんは二十八である・・・
森鴎外
「安井夫人」
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・・・それよりも、初めから落ち着いて宣伝のできるように、どこかに会場を借り聴衆を集めて演説するとする。父の情熱は純粋であり、考えも正しいが、しかし残念ながら極めて単純である。情熱、確信という点においては聴衆以上であるとしても、話すことの内容は反っ・・・
和辻哲郎
「蝸牛の角」