・・・ 前衛映画 映画を演劇や文学から解放して映画的な映画の天地を開拓しようとして起こされたいろいろの運動の試みがいわゆる前衛映画である。「アヴァンギァルドとは金にならぬ映画を作る人たちの仲間を言う」と揶揄した人がある。従・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・アルベールの愛の破綻と友情の危機を象徴するために、蓄音機の針をレコードの音溝の損所に追い込んでガーガーと週期的な不快な音を立てさせたり、あるいは、重要でない対話はガラス戸の向こう側でさせて、観客の耳を解放し、そうすることによって想像力を活動・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ この訓戒はこの学者の平生懐抱するような人生哲学からすればきわめて当然な訓戒として受け取られるのであるが、これとは少しちがった種類の哲学の持ち主であるところの他の学者に言わせると、それと反対に「映画でも見ないと頭がかたくなっていけないか・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・ただそれらの間の優劣を区別する場合の目標は、著者の主観によって選まれた問題の構成のしかたとその解法の選択いかんによって決定されるのであって、この優劣判断の際には、また審判者の個性のいかんによって、必ずしも衆議一決というわけに行かない場合があ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・草原の真唯中に、何一つ被蔽物もなく全く無限の大空に向って開放された巣の中には可愛い卵子が五つ、その卵形の大きい方の頂点を上向けて頭を並べている。その上端の方が著しく濃い褐色に染まっている。その色が濃くなるとじきに孵化するのだとキャディがいう・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・ 玉突きをするのにキュー尻のほうを持つ手の手首を強直しないよう自由に開放することが必要条件である。手首が硬直凝固の状態になっていてはキューのまっすぐなピストン的運動が困難であるのみならず、種々の突き方に必要なキューの速度加速度の時間的経・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・自分は幸いにここでも図書室を自由に開放してもらって、読書したりノートを取ったり、また河のメアンダーに関する小さな「仕事」をさせてもらったりした。ドイツの学者のアルバイテンという言葉の意味がここに一年半通って同学者のやり方を見聞している間に自・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・現代の人はしきりに自由とか開放とかいうような事を主張する。同時に秩序とか組織とか云うものを要求している。一方では束縛を解いて自由にして貰わなければたまらないと云っていながら、一方では秩序とか組織を立てなければ事業が発展しないと騒いでいる。が・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・自分の病気は日を積むにしたがってしだいに快方に向った。しまいには上草履を穿いて広い廊下をあちこち散歩し始めた。その時ふとした事から、偶然ある附添の看護婦と口を利くようになった。暖かい日の午過食後の運動がてら水仙の水を易えてやろうと思って洗面・・・ 夏目漱石 「変な音」
・・・では少々我輩の手に合わん高等下宿だなと思ながら「ナイフ」で開封すると、「御問合せの件に付申上候。この家はレデーの所有にて室内の装飾の立派なるはもちろん室々はことごとく電気灯を用いよき召使を雇い高尚優雅なる生活に適するように意を用い候。宿料は・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
出典:青空文庫