・・・古典の生れた環境の解明だけでは新しく文化を再生せしめ、「自己を変貌せしめる」役には立たず、それを憧れ、信仰し、永遠の青春として味到してはじめて血肉となるのであるから、例えば「日本的なるもの」の解釈に当って、その問題の発生を社会的な原因の面か・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ ――私、戸籍登記所で改名する! ワーニカは、マトリョーナの赤い頬っぺたと、そこへおちてる金髪を眺めた。 ――マクシムに私注意した、もう。でもあいつがそれをきかない訳知ってる? マトリョーナだからさ! 私が。 ワーニカは思わ・・・ 宮本百合子 「ワーニカとターニャ」
・・・だから、自身生かしきれぬ純な情感に苦しむとき、その無力と躊躇と昏迷した考えをてきぱきと解明して、後からつよく押し出すものよりは、音楽にしろ、映画にしろ、小説にしろ、あるままの生活の感情を認めて、一緒にたゆたって、ほのかになって、眠らしてくれ・・・ 宮本百合子 「私も一人の女として」
・・・熊喜の嫡子衛一郎は後四郎右衛門と改名し、玉名郡代を勤め、物頭列にせられた。明治三年に鞠獄大属になって、名を登と改めた。景一の五男八助は三歳の時足を傷けて行歩不自由になった。宗春と改名して寛文十二年に病死した。景一の六男又次郎は京都に住んでい・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
出典:青空文庫