・・・ だが諸君、だがね諸君、歯磨にも種々ある。花王歯磨、ライオン象印、クラブ梅香散……ざっと算えた処で五十種以上に及ぶです。だが、諸君、言ったって無駄だ、どうせ買いはしまい、僕も売る気は無い、こんな処じゃ分るものは無いのだから、売りやせん、・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・で、廷珸の手へ託しては置いたが、金高ものでもあり、口が遠くて長くなる間に、どんな事が起らぬとも限らぬと思ったので、そこでなかなかウッカリしておらぬ男なので、その幅の知れないところへ予じめ自分の花押を記して置いて、勿論廷珸にもその事は秘してお・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・同志丹野その他の前衛が入れられてから、そういう人々は、人間の体を洗うに洗濯石鹸という法があるかと、自分達の使う石鹸を風呂場に残しておいて皆に使わして呉れ、と要求して、今では花王石鹸が入っているのだそうだ。 そういう話をし、その女は、・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫