・・・ある家では牡蠣を入れたのを食わされて胸が悪くて困った記憶がある。高等学校時代に熊本の下宿で食った雑煮には牛肉が這入っていた。土佐の貧乏士族の子の雑煮に対する概念を裏切るような贅沢なものであった。比較にならぬほど上等であるために却って正月の雑・・・ 寺田寅彦 「新年雑俎」
・・・これがもういっそう大仕掛けになって、たとえばアジア大陸と太平洋との間に起こるとそれがいわゆる季節風で、われわれが冬期に受ける北西の風と、夏期の南がかった風になるのです。 茶わんの湯のお話は、すればまだいくらでもありますが、今度はこれくら・・・ 寺田寅彦 「茶わんの湯」
・・・例えば光琳の草木花卉に対するのでも、歌麿や写楽の人物に対するのでもそうである。こういう点で自分が特に面白く思うのは古来の支那画家の絵である。尤も多くはただ写真などで見るばかりで本物に接する事は稀であるが、それだけでも自分は非常な興味を感じさ・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・御畳瀬 「ピパ」牡蠣の種類。「シ」は在所。「セッ」巣。北海道に地名ビバウシがある、バチェラーはやはり「貝のある所」と解している。bがmに変るのは普通だからこれは同じものらしい。仁淀 坪井博士はチャム語「ニオト」塩魚、塩肉としている。・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・西洋でも花瓶に花卉を盛りバルコンにゼラニウムを並べ食堂に常緑樹を置くが、しかし、それは主として色のマッスとしてであり、あるいは天然の香水びんとしてであるように見える。「枝ぶり」などという言葉もおそらく西洋の国語には訳せない言葉であろう。どん・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 外国人のものでは下記のものを参照した。B. H. Chamberlain : "Bash and the Japanese Epigram." Trans. Asiatic Soc. Jap. Reprint Vol.1 (1・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・きわめて卑近の一例を引いてみれば、庭園の作り方でも一方では幾何学的の設計図によって草木花卉を配列するのに、他方では天然の山水の姿を身辺に招致しようとする。 この自然観の相違が一方では科学を発達させ、他方では俳句というきわめて特異な詩を発・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・またあの時の親子にも再び会わなかった。 八 りんどう 同じ級に藤野というのがいた。夏期のエキスカーションに演習林へ行く時によく自分と同じ組になって測量などやって歩いた。見ても病身らしい、背のひょろ長い・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・ もっと詳しくいろいろ実験したいと思っているうちに花期が過ぎ去った。そうしてその年以来他の草花は作るが虞美人草はそれきり作らないので、この無慈悲な花いじめを繰り返す機会に再会することができない。 四 カラジウ・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・あるいは夏季水道の水を汲んだままで実験していると溶けた空気が出て来て器械に附着し著しい誤りを生ずる事なども実験させた方がよいと思う。 その他「完全なる剛体」とか「摩擦なき面」とか「一定の温度」とか一々枚挙に遑はないが、こういう言葉を如何・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
出典:青空文庫