・・・見ると、一人の変に鼻の尖った、洋服を着てわらじをはいた人が、鉄砲でもない槍でもない、おかしな光る長いものを、せなかにしょって、手にはステッキみたいな鉄槌をもって、ぼくらの魚を、ぐちゃぐちゃ掻きまわしているのだ。みんな怒って、何か云おうとして・・・ 宮沢賢治 「さいかち淵」
・・・大学などでは一種のアカデミックな社交性というようなもので綺麗ごとに共学されていて、たとえばアメリカの大学の社会科の女子学生と男子学生とが、夏期休暇中の共同研究として、浮浪者の生活調査をやるとか、女子の失業と売淫生活に堕ちてゆく過程の調査だと・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・見ているとそれほどでないのに、姿の見えない離れたところできくと、それは大きい凄じい掻き音である。それでもまだ人は近づけず、景清らしく秋の日に照されている。 黒子だらけの顔 いま住んでいる家で二階の南縁に立つと、・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・の店先に立つと、店の板じきの奥に向いあって坐ってせんべいをやいている職人たちの動作がすっかり見えた。火気ぬきのブリキの小屋根の下っている下に、石の蒲焼用のこんろを大きくしたようなものにいつも火がかっかとおこっていた。それをさしはさんで両側に・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ モスロカフは、それより前、夏期の野営を組織し、そこでロカフの作家たちが軍事知識の吸収と文学活動をやるようにした。 レンバルトロカフも五月に入るとロカフ主催の軍事講習会を催した。十四回の講義で、「軍事問題におけるマルクス・レーニン主・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・附近一帯の大地主である××では、石塀をめぐらした主家のまわりに、米やと花卉栽培とをやる家があって、赤いポストが米屋の前に立っている。そこでは、切手も売るのであった。札のかかっている横を入って菊畑へ行ってみたらば、そこの棚にのって飾られている・・・ 宮本百合子 「この初冬」
特に夏期の書斎としての注文も思い当りません。余り明るくなく近くに樹木が欲しく、静かで空気の流通がよい処が書斎として四時の望みです。私は期節のうつりかわりを自分の書斎に導かない方を寧ろこのみます。四辺の自然が異った眺めを与え・・・ 宮本百合子 「四時の変化と関りのない書斎」
・・・あちらの学校はたいてい六月のはじめから三月位ありますので専門学校の女学生は夏季講習を聴く者と、避暑に出かけるものとに分れます。 避暑の方法はやはり日本と同じで海か山へ行くのですが、しかし海へ行くとしても只ゆくばかりでなく、いろいろな戸外・・・ 宮本百合子 「女学生だけの天幕生活」
・・・ そこで、スモーリヌイのレーニングラード・ソヴェト婦人部は文化部の事業として、この農村ソヴェト選挙準備のための夏期講習会を組織した。 期間。二ヵ月。 課目。ソヴェト政権とはなにか。世界の経済。党史。数学。ロシア語。 今ここで・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ヴィンダー 活溌な火気奴! 活動をつづけろ。何より俺の頼もしい配下だ。飛べ、飛べ! ぐんと飛んで焼き払え。祖先の時柄にも似合わず、プラミシュースに盗ませた火と云うものの真の威力を知らせて呉れよう。水になんぞは怯じけるな!カラ ああ、・・・ 宮本百合子 「対話」
出典:青空文庫