･･･ぶ、かくのごとくすること日々ある日また四老に会す、幽賞雅懐はじめのごとし、眼を閉じて苦吟し句を得て眼を開く、たちまち四老の所在を失す、しらずいずれのところに仙化して去るや、恍として一人みずから佇む時に花香風に和し月光水に浮ぶ、これ子が俳諧の･･･ 正岡子規 「俳人蕪村」
･･･それからあの昔の火口のあとにはいって僕は二時間ねむった。ほんとうにねむったのさ。するとね、ガヤガヤ云うだろう、見るとさっきの人たちがやっと登って来たんだ。みんなで火口のふちの三十三の石ぼとけにね、バラリバラリとお米を投げつけてね、もうみんな･･･ 宮沢賢治 「風野又三郎」
･･･ 大河内氏の著書は、鶏小舎を改造せる作業場の中で、ズボンをつけ、作業帽をかぶりナット製作をしている村の娘たち、あるいは村の散髪屋を改造せる作業場で、シボレー自動車用ピストンリングの加工をしている縞のはんてんに腰巻姿の少女から中年の女の姿･･･ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
･･･出版企業は、作家を原料加工業、読者を市場としてみるにすぎない。営利出版は、本質がそうである。将来にわたる文化の沃土として作家や読者大衆をみない。この条件は、作家をわる巧者にして、自分にとっても曖昧な「文学性」の上に外見高くとまりつつ稼ぎつづ･･･ 宮本百合子 「ある回想から」
･･･糸を紡ぐこと、織ること、そしてそれを体にまとえるように加工することは非常に古い時代から女のやることであった。これはギリシア神話の中のアナキネという話の物語にでも推察される。アナキネは大変美しく可愛い娘で、織物を織ることが上手であった。みごと･･･ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
一 カールの持った「三人の聖者」 ドイツの南の小さい一つの湖から注ぎ出て、深い峡谷の間を流れ、やがて葡萄の美しく実る地方を通って、遠くオランダの海に河口を開いている大きい河がある。それは有名なライン河･･･ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
･･･鰯の加工の仕事などは女が働いているが、そういう加工の仕事のないところの漁家の婦人は、魚売りのほかにどんな直接の仕事があるだろうか。昨今のことだから工場へでも行くひとが多いのだとばかりも云えないであろう。 農村の女の生活も実に辛苦に満ちて･･･ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
･･･ ケーテは、ケーニヒスベルクの生れた家で肖像だの河港に働く労働者の姿だのを描きはじめた。今まで鉛筆でだけ描いていたケーテは、筆を使いはじめたが、そのときの教師はエミール・ナイデという故郷の町の芝居がかりの田舎画家であった。 そういう･･･ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
･･･いかに古フォードがやすく買えて、労働者農民が電話、自動車をつかう率の高いアメリカでも、全国の経済が下降期にあって、農民の恐怖と、破綻を物語るスタインベックの「怒りの葡萄」がベスト・セラーズとなっているのが当時の社会の現実の面であった。ダイジ･･･ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
･･･のために歌稿をよせた作者の数は一万八千人であった。合計三十七万五千首という尨大な数の中から、十人の現歌壇人の選者によって、選がされた。選者の一人である窪田空穂氏の選後の感想には、今日の文学の問題として様々の意味から深い感興をよびおこすものが･･･ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典：青空文庫
