・・・ みんなもこれに力を得てかさかさしたときの声をあげて景気をつけ、ぞろぞろ随いて行きました。 さて平右衛門もあまりといえばありありとしたその白狐の姿を見ては怖さが咽喉までこみあげましたが、みんなの手前もありますので、やっと一声切り込ん・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・夫の書斎から差すほのかな灯かげの闇で、夜おそく、かさかさと巣の中で身じろぐ音などが聞える。 ところが四五日前、一羽の紅雀が急に死んで仕舞った。朝まで元気で羽並さえ何ともなかったのに、暮方水を代えてやろうとして見ると、思いもかけない雄の鮮・・・ 宮本百合子 「餌」
・・・ 女にする男 その紙やすりである男の荒い掌になでられすぎた女を御覧、 こすりすぎた象牙の表面同様につやがぬけ、筋立ち、かさかさして居る。 波多野秋をにくむ女の心理 自分も女、あれも女、・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 木戸が開いて居るので、庭へ廻り、ささくれた廊下や、赤土で、かさかさな庭を見、此が自分の家になるのかと、怪しいような心持さえした。 H町に暮して居た種々な、ややアリストクラットな趣味や脆弱さが抜けて居ないので、自分は、静に生活を冥想・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ ○池の水はすっかり増して、冬の間中は、かさかさにむき出て居た処にまで、かなり深く水がたたえられて居る。日光が金粉をまいたように水面に踊って、なだらかな浪が、彼方の岸から此方の岸へと、サヤサヤ、サヤとよせて来るごとに、浅瀬の水草が、・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・ 私は、かなり曲った腰と、鎌を石でこすって居る、今にもポキーンと骨のはなれそうにかさかさの手をながめながら云った。「はい、お前様、うちの息子は皆正直ものでなし、けれど、此村の風で、自分の持ち畑とか田がなけりゃあ、働ける間、働・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・それが、いつの間にかさかさになって、世界のファシストたちが、平和をみだす軍国主義者は共産主義者だなどといいはじめたのはなぜだろう。共産主義者そのほか、人類社会が発展し幸福になるためには、社会生産の機構が資本の解放とともにもっと万人の幸福のた・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
出典:青空文庫