・・・止めて 汽車の煙りを見守れる男田舎道乗合馬車の砂煙り たちつゝ行けば黄の霞み立つ赤土に切りたほされし杉の木の 静かにふして淡く打ち笑む白々と小石のみなる河床に 菜の花咲きて春の日の舞ふ・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・特にこの点における同志小林の指導的理論家としての功績を無視し、あるいは過少評価してぼやかすことは、そのこと自身誤った右翼的危険を示すものなのである。 最後に、同志小林の業績を評価するに当って、その発展のスプリングを、抽象化された性格に置・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・数万、十数万という広い人々の間に読まれている時、そして一方にはその位の読者は何の苦もなくさらっているエロティックな又は虚無的なブルジョア文学が存在する時、もし民主主義文学運動が自分の陣営の作家の影響を過小評価することがあれば、それは真面目に・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ このことが一九四六年からのち、一時プロレタリア文学に対する過小評価の論を流行させる原因の一つとなり、その文献的欠陥となっている。当時、日本の前衛組織は非合法におかれ、小さい規模であった。一つの運動に、他の一つの運動の必要が重なって来て・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・今日の社会の情勢の中で、多くは個人的な事情から文学の仕事をしてゆくにあたって、これらの人々は自分の作家としての活動に、過去の癖から妙な過小評価を持って対している。はっきりした言葉にならぬまでも、文学の仕事を他の政治的な仕事と比べて機械的に下・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・ あなたが、一人の作家の主観として、自身が決してその時評に云われていたような作家の仕事への過小評価、仕事への自覚、誠実、情熱の不足をもって仕事はしておらぬ、そういう表現はうけがえぬ、と云われる場合、私はこういう場処で、広い意味では共通な・・・ 宮本百合子 「不必要な誠実論」
・・・ プロレタリア文学が存在しなかったというどころか、逆に何故プロレタリア文学のほかの進歩的文学が過小評価されなければならなかったかということをさぐりたかったからであった。私の書いているその評論の全主旨はプロレタリア文学の存在否定でない。・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学の存在」
・・・ファシストは自分と同じ民族に属する人民の社会的判断力をいつも過少評価するのが特徴の一つである。自身の潰滅だけが彼等に理解される失敗のすべてである。 わたしたちはポツダム宣言をもう一度、もう二度三度とくりかえしてよんで見る必要がある。そこ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・世界の物理学が原子の問題をとりあげ得る段階に迄到達していたからこそ、ポーランドの精励なる科学女学生の手はピエール・キュリーの創見と結び合わされ、彼女の手もラジウムの名誉ある火傷のあとをもつようになった。愛は架空にはない。原子が、人間の幸福の・・・ 宮本百合子 「まえがき(『真実に生きた女性たち』)」
・・・ 靴屋の見習小僧にやられたゴーリキイが、火傷をして祖父の家に帰された。その時、九つばかりであった彼は、同じ建物の中に住んでいるリュドミラという年上の跛足の女の子と大仲よしになった。二人は湯殿の中へかくれて本を読み合った。リュドミラの母親・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
出典:青空文庫