・・・「さアお前らぼんやりしてんと、どうするのや?」とお霜は云った。「和尚さん呼んで来うまいか。」とお留は云った。「それよか何より棺桶や。棺桶どうする?」と秋三は云い出した。「うちのお父つぁんの死んだときは棺桶やったが、あれでもお・・・ 横光利一 「南北」
・・・一切の現象を仮象だと考えた。 ――何故にわれわれは、不幸を不幸と感じなければならないのであろう。 ――何故にわれわれは、葬礼を婚礼と感じてはいけないのであろう。 彼はあまりに苦しみ過ぎた。彼はあまりに悪運を引き過ぎた。彼はあまり・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・禅においては、一休和尚がこの時にまだ生きていた。心敬はこの人を、行儀、心地ともに独得の人としてほめている。よほど個性の顕著な人であったのであろう。そうしてこの禅の体得ということも、日本文化の一つの特徴として、今でも世界に向かって披露せられて・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫