・・・――後年「天保六歌仙」の中の、主な rol をつとめる事になった男である。「ふんまた煙管か。」 河内山は、一座の坊主を、尻眼にかけて、空嘯いた。「彫と云い、地金と云い、見事な物さ。銀の煙管さえ持たぬこちとらには見るも眼の毒……」・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・然るに『書經』は支那のあらゆる河川が堯の時以來氾濫し居たりしに、禹はその一代に之を治したりと傳ふ。かくの如きも事實として肯定し得らるべきか。 これ傳説の傳説たる所以にして、堯は天に、舜は人に、禹は地に、即ちかの三才の思想に假托排列せられ・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・しかしたとえば歌仙式連句の中の付け句の一つ一つはそれぞれが一つのモンタージュビルドであり、その「細胞」である。もちろんその一つ一つはそれぞれ一つの絵である。しかし単にそれらの絵が並んでいるというだけでは連句の運動感は生じない。芭蕉が「たとえ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・草を吹く風の果てなり雲の峰 娘十八向日葵の宿死んで行く人の片頬に残る笑 秋の実りは豊かなりけりこんな連続をもってこの一巻の「歌仙式フィルム」は始まるのである。それからたとえば踊りつつ月の坂道や・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・題目は朝鮮の河川の流域変更に関するものだそうである。なるほど、新聞記事のどこにも、当人自身がその論文をよんだとはっきり書いてはなかったかもしれない。河川の流域を変ずれば、なるほど黄海に落ちるはずの水を日本海に入れる事も可能である。しかし、新・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ 電燈はその村に来ているが、私の家は民家とかなりかけ離れた処に孤立しているから、架線工事が少し面倒であるのみならず、月に一度か二度くらいしか用のないのに、わざわざそれだけの手数と費用をかけるほどの事もない。やはり石油ランプの方が便利であ・・・ 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・ 今年はある目的があって、陸地測量部五万分一地形図を一枚一枚調べて河川の流路を青鉛筆で記入し、また山岳地方のいわゆる変形地を赤鉛筆で記入することをやっている。河の流れをたどって行く鉛筆の尖端が平野から次第に谿谷を遡上って行くに随って温泉・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・ 発句は百韻五十韻歌仙の圧縮されたものであり、発句の展開されたものが三つ物となり表合となり歌仙百韻となるのである。発句の主題は言葉の意味の上からは物語的には発展されないが、連想活動の勢力としてはどこまでも展開されて行く。また発句から脇と・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・その多数な「歌仙」や「百韻」のいかなる部分を取って来ても、そこにこの「放送音画」のシナリオを発見することができるであろう。もちろんこれらの連句はさらにより多く発声映画のシナリオとして適切なものであるが、しかし適当に使えばここにいわゆるモンタ・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・ひとたび世界を旅行して日本へ帰って来てそうして汽車で東海道をずうっと一ぺん通過してみれば、いかにわが国の自然と人間生活がすでに始めから歌仙式にできあがっているかを感得することができるであろうと思う。アメリカでは二昼夜汽車で走っても左右には麦・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫