・・・それである一つの歌と次の歌とが表面上関係はないようでも、それから少し下層へ掘込んで行くとどこかで、しっかり必然的につながっているように思われ、それを掘込んで行くときに結局不知不識に自分自身の体験の世界に分け入ってその世界の中でそれに相当する・・・ 寺田寅彦 「書簡(2[#「2」はローマ数字2、1-13-22])」
・・・いろんな仮装をした群れも通る。子供が多い。そのうち行列の前駆に騎兵が来ました。ピカピカ光る兜に黒い髪の毛をたらしている、キュイラシェと言うのだそうです。そのあとから楽隊が来る。止まったきりになっている電車の屋根の上はいっぱいの人でそこからも・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・昨年の颱風の上陸したのは早朝であったのでその前にも空はいくらかもう明るかったであろうから、ことによるといわゆる颱風眼の上層に雲のない区域が出来て、そこから空の曙光が洩れて下層の雨の柱でも照らしたのではないかという想像もされなくはないが、何分・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・こういう仮想的の問題を考えてみた時にわれわれは教育というものの根本義に触れるように思う。 私は蓄音機や活動写真器械で置き換え得られるような講義はほんとうの意味の教育的価値のないものだろうと思っている。もし講義の内容が抜け目なく系統的に正・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・ 九月一日は帝都の防空演習で丸の内などは仮想敵軍の空襲の焦点となったことと思われる。演習だからよいようなものの、これがほんとうであったらなかなかの難儀である。しかし、もしも丸の内全部が地下百尺の七層街になっていたとしたら、また敵にねらわ・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・ 日本はその地理的の位置がきわめて特殊であるために国際的にも特殊な関係が生じいろいろな仮想敵国に対する特殊な防備の必要を生じると同様に、気象学的地球物理学的にもまたきわめて特殊な環境の支配を受けているために、その結果として特殊な天変地異・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・しかし浴場に附属した礼拝堂と図書館と画廊と音楽堂と運動場の建築が必要であると云って、それで三人でこの仮想的浴場のプランを画いてみたりした。しかしその費用の出処については誰にも何の目あてもないので、おしまいにはとうとう三人で笑い出してしまった・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・凍雨の方は上層で出来た雨滴が下層の寒冷な空気を通過するうちにだんだん冷却して外部から氷結し始めるということは、内部に水や不透明の部分のある事から推定される。また中層の温暖な層の上に雪雲がある場合には、そこから落ちる雪片の一部は中層を通る時に・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・ しかし私はただ一つの有りうべき場合として次のような仮想的の事件を想像してみた。 この象は始めから狂気でもなんでもなかったのである。至極お心よしの純良な性質であった。ただあまりに世間見ずのわがままなおぼっちゃんの象であった。それでこ・・・ 寺田寅彦 「解かれた象」
・・・もちろん生物界でそういうふうの進化をしたものはないかもしれないが、そういう仮想的な変遷もやはり一種の進化と見られないことはないであろう。 そういうふうにして一度固定した俳句の型式が環境に適応したために何百年も遺伝されて伝わって来たのが、・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
出典:青空文庫